特定技能「漁業」で外国人の採用する方法をわかりやすく解説!
「特定技能」とは2019年4月に新しく創設された制度(在留資格)です。今まで外国人をフルタイム雇用する場合、基本的に現場で働くことはできませんでした。しかし、特定技能の登場により、人手不足とされる14業種においてのみ、外国人が現場で働くことができるようになりました。
今回はそんな特定技能の1分野、「漁業」について解説します。
特定技能についてまとめた「特定技能まるわかり資料」のダウンロードはこちら
1. 特定技能「漁業」について
1-1.特定技能「漁業」とは
漁業分野で外国人材を採用するには、在留資格「特定技能」を利用します。
「特定技能」とは、生産性向上や国内人材確保の取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難である産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的に、2019年に新設された在留資格です。特定技能分野は漁業を含め12分野14職種あり、すべての職種が深刻な人手不足に陥っています。
特定技能には1号と2号があり、1号が終了したら2号に移行できます。1号では通算5年間しか働けないことに対し、2号では永続的に働くことができるので、メリットが大きいです。以前は特定技能2号に移行できる分野が「建設」と「造船・船舶」の2つのみでしたが、2023年6月に入管法が改正され、介護以外の漁業を含む9分野にも拡大しました。
2023年6月末時点で、特定技能「漁業」に従事している外国人は2,148人おり、コロナによる規制の緩和、また特定技能2号の対象分野の拡大もあり、今後ますます増加していくことが見込まれます。
在留資格「特定技能」についてはこちらの記事を参考にしてください。
参考:出入国在留管理局「特定技能在留外国人数(令和5年6月末)」
1-2.雇用形態
直接雇用
雇用形態の1つ目は直接雇用です。
漁業分野の事業者が受け入れ機関として、直接特定技能外国人材を雇用します。
派遣雇用
雇用形態の2つ目は派遣雇用です。
派遣事業者が外国人材の受け入れ機関となり、各漁業分野の事業者に外国人材を派遣します。
原則、特定技能では外国人材を派遣形態で雇うことはできません。フルタイムで正社員で働くという、雇用の安定性が重視されているためです。
しかし漁業は、対象の魚種や漁法によって繁忙期や閑散期があるため、派遣形態を可能にすることで、複数の事業所で繁忙期に人手を確保できるようにしました。
特定技能「漁業」で派遣事業ができる事業者の要件は以下の通りです。
- 厚生労働大臣の許可を受けた労働者派遣事業者であること
- 地方公共団体または漁業協同組合、漁業生産組合もしくは漁業協同組合連合会、その他漁業に関連する業務を行っていること
1-3.受け入れ可能期間
在留資格「特定技能1号」では、通算5年まで外国人材を雇用することができます。5年間継続して雇用する必要はなく、繁忙期のみ雇用して通算5年雇用する形態も可能です。
外国人材は5年間雇用することが可能ですが、特定技能1号の在留期間は「1年、6カ月または4か月」です。在留資格の更新手続きが必要なので、注意してください。
1-4.業務内容・職種
特定技能の漁業分野には「漁業」と「養殖業」の2つの職種があります。それぞれ従事できる業務が異なります。
その他の関連業務についてですが、特定技能外国人材が関連業務のみに専ら従事することはできません。しかし、日本人が通常従事することとなる関連業務であれば、外国人材も付随的に業務することができます。
出典:水産庁「特定技能外国人材の受け入れ制度について(漁業分野)」
2. 特定技能「漁業」を取得するまでのルート
特定技能「漁業」は、2つの業種「漁業」と「養殖業」の業務に従事できる在留資格です。技能実習「漁船漁業職種、養殖業職種」との関連があります。
特定技能外国人材を受け入れるためのルートは2つあります。
- 技能実習2号を良好に修了する
- 日本語試験と技能試験に合格する
2-1.技能実習2号を良好に修了する
1つ目のルートは、元々日本で技能実習生だった外国人材を採用することです。
以下の表に技能実習のどの業務が特定技能「漁業」に移行可能か提示しています。
技能実習2号から特定技能1号への移行方法は、以下で詳しく解説しています。
「日本語試験と技能試験に合格する」については『5.特定技能「漁業」の試験について』で解説しています。
3.特定技能「漁業」を採用するための要件
続いて、特定技能「漁業」で外国人を採用するための企業側の要件について解説します。
3-1.法令を遵守している
特定技能外国人材を受け入れるためには、出入国管理関係法令・労働関係法令・社会保険関係法令・租税関係法令等を遵守していなければなりません。
その他にも受け入れ機関が適切であること、などの要件があります。
- 労働,社会保険及び租税に関する法令を守っていること
雇用後も定期的に出入国在留管理局からのチェックが入るので、守っていることが必須条件です。 - 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
こちらは日本人も対象になるので注意が必要です。 - 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
技能実習生を雇用していた企業には稀にあるので、過去に行方不明者がいなかったかはチェックしましょう。 - 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
過去5年以内に違反がないかチェックしましょう。 - 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
例えば、外国人本人の早期退職や失踪を防ぐために、あらかじめ金品などを預かる等の行為はできません。 - 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
外国人本人の早期退職や失踪を防ぐために、違約金等を定める等の行為はできません。 - 支援に要する費用を,直接又は間接に外国人に負担させないこと
雇用するに当たっての費用や雇用後の支援にかかる費用を外国人本人に負担させることはできません。 - 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
原則、銀行口座への振込になります。
3-2.協議会への加入
外国人材を受け入れる企業は、水産庁が設けた「漁業特定技能協議会」に加入する必要があります。
この協議会は、漁業分野における特定技能制度の適切な運用を図るために、受け入れ機関・業界団体・制度所管省庁から構成されます。
〈受け入れ機関(企業)は以下の要件を守る必要があります〉
・ 特定技能外国人材を受け入れた日から4か月以内に協議会の構成員になること
・協議会(分科会を含む)において協議会が決議した措置を講じること
・協議会及びその構成員に対し、必要な協力を行うこと
協議会への加入方法
協議会に加入するためには「漁業特定技能協議会1号構成員資格証明書交付手続規則」を参照したうえで、以下の書類を所属する漁業協同組合等を通じて提出してください。
- 漁業特定技能協議会1号構成員加入申請書
- 特定技能雇用契約書
- 雇用条件書
- 1号特定技能外国人支援計画書
- 支援委託契約書(登録支援機関を使用する場合)
- 派遣計画書(派遣形態の場合)
- 就業条件明治書(派遣形態の場合)
- 就業条件明示書(派遣形態の場合)
- 派遣先の概要書(派遣形態の場合)
- 派遣許可書(派遣形態の場合)
3-3.日本人と同等以上の待遇で雇用契約を結ぶ
「漁業」に限らず、特定技能ビザで外国人を雇用するとき、その雇用契約の内容は日本人と同等かそれ以上である必要があります。
特定技能外国人を採用したいけど、どのくらいコストがかかるのか分からないという企業様向け「特定技能外国人コスト一覧表」のダウントードはこちらから
- 報酬額が日本人と同等以上
- 外国人であることを理由として,報酬の決定,教育訓練の実施,福利厚生施設の利用その他の待遇について,差別的な取扱いをしていないこと
4.外国人材受け入れまでの流れ
まず、採用する外国人が漁業分野の技能実習2号を良好に修了しているか確認します。
※技能実習2号を良好に修了する
…技能実習を2年10カ月以上修了し、技能実習評価試験の実技試験に合格すること
この要件をクリアしている外国人は、日本語試験・漁業技能測定試験に合格する必要がありません。
技能実習2号を良好に修了していない外国人を採用する場合は、日本語試験・漁業技能測定試験に合格してもらう必要があります。
国外在住の外国人を特定技能「漁業」で採用する場合は、外国人が居住する国で日本語能力・技能を証明するための試験を受けてもらう必要があります。日本語能力を証明する試験、技能を証明する試験ともに海外でも試験を実施していますので、試験日程、試験場所を確認の上、受験してもらいましょう。
漁業従事者が特定技能外国人材を受け入れるためには、特定技能外国人受入れのための支援計画を策定し、この計画に基づいて日本での生活に必要な契約の支援や日本語学習の機会提供、定期面談といった支援を行う必要があります。
しかし、日常の業務と並行して上記のような支援すべてを実施できる体制を自社内で整えられる企業・施設は少ないでしょう。 そのため、特定技能外国人を受け入れている企業・施設の多くが支援業務の一部または全部を登録支援機関に委託しています。
登録支援機関について詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
特定技能「介護」で外国人を採用する際には、以下の条件を踏まえて雇用条件や給与を決定する必要があります。
- 給与・手当ともに同等の技能を持つ日本人従業員と同等またはそれ以上であること
- 業務内容が「漁業」「養殖業」の範囲内であること
雇用条件や給与が決定したら、特定技能「漁業」で採用する外国人の募集を行います。
特定技能外国人の採用には次のような方法があります。
- 直接採用(自社のホームページで募集、SNSを通じて求人情報を発信するなど)
- 登録支援機関に人材紹介を依頼
- 国内外の民間職業紹介機関を利用
- 日本語学校と連携
募集方法によって費用や人材の集まりやすさ、強みなどがそれぞれ異なります。
漁業は肉体労働が伴う業種であり、特に遠洋漁業になると体力も不可欠です。年齢制限や健康上の不安がないことなどの条件も、分かりやすく示すようにするといいでしょう。
外国人の面接方法についてはこちらの資料で解説しています。
「外国人採用面接質問シート」のダウンロードはこちら
採用する外国人が決定し、雇用契約を締結したら、出入国在留管理局へ特定技能「漁業」の在留資格(ビザ)を取得するための申請を行います。国内在住者の場合は在留資格変更申請、海外在住者の場合は在留資格認定証明書交付申請を提出します。
国内在住者 | 海外在住者 | |
申請方法 | ①出入国在留管理局へ持参 ②オンラインシステムを通じて申請 ③登録支援機関や行政書士に申請取次を依頼 | ①出入国在留管理局へ持参 ②オンラインシステムを通じて申請 ③登録支援機関や行政書士に申請取次を依頼 |
申請提出者 | ①外国人本人 ②外国人本人または受入機関 ③申請等取次者資格を持つ行政書士、登録支援機関職員 | ①受入機関 ②受入機関 ③申請等取次者資格を持つ行政書士、登録支援機関職員 |
申請先 | 外国人の居住地を管轄する出入国在留管理局 | 受入機関の本社住所を管轄する出入国在留管理局 |
国外にいる外国人を雇用する場合、在留資格「特定技能」の在留資格認定証明書交付申請は、審査に1~3か月程度かかります。
在留資格認定証明書交付申請の許可が下りたら、外国人当人に現地の大使館でビザを発給してもらいます。無事ビザが発給されたら、ビザの発給から3か月以内に来日してもらい、入社手続きを行います。
特定技能外国人の入社手続きは、日本人社員の入社手続きとほとんど変わりません。
以下の保険に加入することになるので、日本人と同様の手続きが必要になります。
- 雇用保険
- 労災保険
- 社会保険
出典:水産庁「特定技能外国人材の受け入れ制度について(漁業分野)
出入国在留管理庁「在留資格認定証明書交付申請」
5.特定技能「漁業」の試験について
5-1.日本語試験合格する
日本で技能実習を修了していない外国人を採用するためには、採用する外国人が「漁業測定試験」と「日本語試験(JLPT N4程度)」の2つの試験に合格しなければなりません。
日本語試験
日本語能力を測る試験は2つあります。どちらかの試験に合格する必要があります。
- 日本語能力試験(JLPT)N4レベル以上
- 国際交流基金日本語基礎テストA2レベル以上
日本語能力試験(JLPT)の各レベル保持者はこのように定義づけられています。
N1レベル | 幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。自然なスピードのまとまりのある会話を聞いて論理構成など詳細に理解できる。 |
N2レベル | より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。日常的な場面で自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて要旨を理解できる。 |
N3レベル | 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。日常的な場面で自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いてほぼ理解できる。 |
N4レベル | 基本的な日本語を理解することができる。日常的な場面でややゆっくり話される会話であれば内容がほぼ理解できる。 |
N5レベル | 基本的な日本語をある程度理解することができる。ゆっくり話される短い会話であれば必要な情報を聞き取ることができる。 |
N4の読解分野の問題例はこちらです。
初級レベルの基本的な文法・語彙・漢字が求められます。
日本語能力試験(JLPT)は年2回(7月と12月)にしか受験できませんが、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)は毎月行われるので受験できる機会が多いです。
しかし知名度や受験者数は圧倒的に日本語能力試験(JLPT)のほうが高いので、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)で力試しをしてみて、最終的に日本語能力試験(JLPT)を取得するのが良いでしょう。
出典:水産庁「特定技能外国人材の受け入れ制度について(漁業分野)」
国際交流基金「日本語能力試験(JLPT)」
5-2.技能試験に合格する
技能試験について
技能実習2号を良好に修了した人以外が受けなければならない試験である「漁業技能測定試験」について説明します。
この試験は業務区分「漁業」と「養殖業」で内容が異なります。2つの試験ともに一般社団法人「大日本水産会」が主催しています。
【漁業】
試験は学科試験と実技試験があります。
学科試験は原則として真偽式(○×を選択する)です。漁業全般及び安全衛生に係る知識及び業務上必要となる日本語能力を測定します。
一方で実技試験は多肢選択式です。図やイラスト等から漁具・漁労設備の適切な取扱いや漁獲物の選別に係る技能を判断する試験により業務上必要となる実務能力を測定します。
海外で実施されているのはインドネシアのみです。7月と11月に実施されます。(2023年は7月11日にランプンで開催されます。)
インドネシアでの試験日程・場所についてはこちらを参考にしてください。 国内では6月12日から8月31日の間、全国各地の会場で実施されます。各会場での試験日程はこちらを参考にしてください。
【養殖業】
漁業と同様、試験は学科試験と実技試験があります。学科試験は原則として真偽式(○×を選択する)です。養殖業全般及び安全衛生に係る知識及び業務上必要となる日本語能力を測定します。
一方で実技試験は多肢選択式です。図やイラスト等から養殖水産動植物の育成管理や養殖生産物の適切な取扱いに係る技能を判断する試験により業務上必要となる実務能力を測定します。
海外で実施されているのはインドネシアのみです。6月と7月に実施されます。(2023年は6月27日にカラワンで、7月11日にランプンで開催されます。)
インドネシアでの試験日程・場所についてはこちらを参考にしてください。
国内では5月15日から2月29日の間、全国各地の会場で実施されます。各会場での試験日程はこちらを参考にしてください。
国内での試験はCBI方式(テストセンターでコンピューターを使用して出題・解凍するテスト形式)で行われます。こちらからCBI方式の試験の体験版をすることができます。
6.まとめ
ここまで特定技能「漁業」で外国人人材を採用するための要件や、採用までの流れを解説しました。
日本の漁業就業者数は減少傾向にあり、高齢化率も高いため、今後も高齢者の退職により就業者数は減少していくと想定されています。肉体労働が多い漁業は国内での就労希望者の確保が難しく、特定技能外国人材の確保がますます重要になります。
しかし、特定技能ビザで外国人を採用するためには義務的支援が必須あったり、ビザの手続きが煩雑であったり、最初はハードルが高く思えます。
漁業分野での初めての外国人人材の採用を考えている採用ご担当者様は、ぜひ当スクールへご相談ください。
当スクールでは、特定技能外国人の採用だけでなく、日本語スクールや日本文化研修なども行っているため、様々な観点から初めての外国人採用へのアドバイスができます。ぜひご気軽にお問い合わせください。