特定技能外国人の給与相場とは?給与・賃金の決め方や注意点について解説
執筆者:伊藤(株式会社JJS 取締役)
「特定技能外国人の採用を考えているけど、給料はどのくらいだせばいいのだろうか?」とお考えの人事担当者様も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、年間200名以上の特定技能外国人の紹介を行う筆者が、特定技能外国人の採用を検討されている人事担当者様に向けて、特定技能外国人の給与相場、給与決定の方法、支払いの際の注意点を解説いたします。
実際に、特定技能外国人をご紹介するにあたって多くの企業様の給与条件を見ているからこそ発信できる給与相場に関する情報もあるので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 特定技能の給与相場はどのくらい?
まず、在留外国人全体の在留資格別の賃金相場をみていきましょう。厚生労働省発表による令和4年における外国人労働者の賃金相場は下記の通りです。
こちらの資料より、特定技能外国人の平均年齢は29歳と技能実習に次いで若い人材が多く、平均勤続年数は技能実習と同様2. 4年ということがわかりました。
また、出入国在留管理庁が技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)にて発表した資料によれば、特定技能外国人の給与相場は下記の通りとなります。
そもそも特定技能という制度が良く分からないという方向けの「特定技能丸わかり資料」のダウンロードはこちらから
初めての外国人採用マニュアルのダウンロードはこちらから
特定技能外国人に対する賃金の支払い状況
(※)「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」の月平均支給額は、旧分野「素形材産業」、「産業機械製造業」及び「電気・電子情報関連産業」の3分野を一括して集計したもの。
注)出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能実習制度の現状について p67」を元に作成
参考:出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の現状について p67」
こちらの資料によれば、特定技能外国人の全分野の平均給与は231,979円でした。
個人的な見解ですと、こちらの平均給与はかなり実態に沿っているのではないかと思います。
実際に、弊社がサポートをさせていただくことの多い外食業や介護業で特定技能外国人を採用するために必要な給与条件は以下と考えております。
飲食店経験者(国内) | 飲食未経験者(国内) | 海外在住者 | |
家賃を引いた手取り金額平均 | 180000 | 170000 | 希望なし |
家賃平均例 | 40000 | ||
手取り金額平均 | 220000 | 210000 | 希望なし |
総支給金額 | 270000 | 260000 | 希望なし |
介護3年実務者研修修了者(国内) | 介護3年経験者(国内) | 介護未経験者(国内) | 海外在住者 | |||||
夜勤なし | 夜勤あり | 夜勤なし | 夜勤あり | 夜勤なし | 夜勤あり | 夜勤なし | 夜勤あり | |
夜勤なし家賃を引いた手取り金額平均 | 160000 | 180000 | 150000 | 170000 | 130000 | 150000 | 希望なし | 希望なし |
家賃平均例 | 30000 | |||||||
手取り金額平均 | 190000 | 210000 | 180000 | 200000 | 160000 | 180000 | 希望なし | 希望なし |
総支給金額 | 230000 | 253000 | 218000 | 245000 | 192000 | 218000 | 希望なし | 希望なし |
また、特定技能外国人は日本でお金を稼ぎ母国の家族を養うことを目的として来日されている方が多いので、家賃を引いた手取り金額(=自由に使える金額)を重視するという点に注意が必要です。
給与条件は特定技能外国人の人材募集はもちろん定着にあたっても重要な要素となりますので、特定技能外国人の家賃負担額を減らすために寮や借上社宅の準備を行い、特定技能外国人複数名にシェアで住んでもらうことで一人当たりの住居負担を減らしたり、住宅手当や家賃補助を行い特定技能外国人の家賃負担を軽減される企業様も多いです。
特定技能外国人を雇いたいが採用コストがどれくらいかかるのか不安という日本の企業様向けにJJSが独自で制作した「特定技能外国人コスト一覧表」のダウンロードはこちらから
2. 特定技能の給与はどう決めるの?
出入国在留管理庁が発表している「特定技能外国人受入れに関する運用要領 」によれば、特定技能外国人の給与を決定する際には、以下の条件を満たしていなければなりません。
本章では特定技能外国人の給与を決定する際のルールについて解説いたします。
- 労働関係法令等を遵守しなければならない
- 外国人の報酬額が日本人と同等額以上でなければならない
出典:出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領 p.5」
2-1. 労働基準法の確認
労働基準法が適用されるのは日本人従業員だけではありません。特定技能外国人についても労働基準法が適用されます。実際に、労働基準法第三条においても下記のように記載されています。
“使用者は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない”
出典:労働基準法(◆昭和22年04月07日法律第49号)
そのため、外国人だからといって安い賃金で雇用することができるということはありません。
また、雇用保険や厚生年金にも加入をする必要がありますし、税金も日本人同様支払います。
2-2. 特定技能外国人の最低賃金とは
前述の労働基準法第三条の通り、外国人と日本人の賃金等について差を設けることができません。
そのため、特定技能外国人であっても最低賃金法が適応され、最低賃金以上の給与を支払う必要があります。
最低賃金は以下の2つに分かれています。
- 各都道府県による「地域別最低賃金」
- 産業別による「特定最低賃金」
特定技能外国人の給与を決定する際、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」を比較し、高い方の最低賃金以上の給与の支払いをする必要があります。
例えば、地域別最低賃金=時給853円、特定(産業別)最低賃金=時給888円だった場合、高い方の時給の888円を支給しなければなりません。
例え、特定技能外国人側が同意をしたとしても、最低賃金を下回っている場合は、法律上無効となりますのでご注意ください。
2-3. 日本人と同等額以上とは
先述の通り、特定技能外国人においても給与は「日本人と同等額以上」であることが条件となります。
そのため、特定技能外国人の給与は同程度の業務内容に従事する日本人労働者と同等以上の金額でなければなりません。
また、以前、「外国人は日本人ほど日本語を話せるわけではないので、教育にも時間がかかるため日本人と外国人とで賃金に差を設けたい」という意見を企業の方からお伺いしたことがありますが、日本語能力は賃金に差を設ける理由として認められませんのでご注意いただければと思います。
給与規程がある場合
すでに給与規定があり日本人従業員もその規定に則って給与が決定されている場合は、特定技能外国人も同様に給与規定に則り給与決定をする必要があります。
賃金規程・比較対象の日本人がいない場合
賃金規定がない場合は、以下の項目に沿って比較対象となる日本人がいるか確認をし、その結果に応じて給与決定を行います。
- 業務内容
- 業務の経験年数
- 学歴
- 役職
- 責任の程度
同程度の経験年数であり、同程度の業務に従事する日本人従業者がいる場合、その日本人従業員を比較対象とし、比較対象となる日本人と特定技能外国人の給与を同等以上に設定する必要があります。
同程度の業務に従事する日本人労働者はいないとしても、特定技能外国人が従事する業務と近い業務等を担う業務に従事する日本人労働者がいる場合は、その日本人労働者の役職や責任の程度を踏まえた上で特定技能外国人との報酬差を合理的に説明でき、年齢及び経験年数を比較しても妥当な給与条件を設定する必要があります。
比較対象の日本人が一切いない場合には、近隣の同業他社で同程度の経験を持ち、同程度の業務に従事する特定技能外国人の報酬額を比較をし給与決定をします。
3. 特定技能の給与支払いにおける注意点とは?
特定技能外国人の給与支払いにおいては注意点が4点ありますので、こちらの章で解説させていただきます。
3-1. 最低賃金以下の支払いを行った場合、罰則がある
1つ目の注意点は最低賃金についてです。特定技能外国人を最低賃金以下の給与条件で雇用した場合は罰則があります。
最低賃金未満の給与しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなければなりません。また、地域別最低賃金額以上の給与を支払わない場合には、50万円以下の罰金が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、30万円以下の罰金が定められています。
出典:最低賃金制度とは|厚生労働省
また、罰則だけではなく、今後特定技能外国人の受け入れ自体もできなくなる可能性もあります。毎年10月ごろに改定される最低賃金はを必ず確認し、遵守にしましょう
3-2. 割増賃金に注意
労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働と定めており、法定労働時間外に労働をさせる場合、割増賃金の支払いが必要になります。前述の通り、特定技能外国人にも労働基準法が適応されるため割増賃金の支払いが必要であることに注意してください。
割増賃金は時間外労働の他に、休日出勤や深夜業(午後10時から翌日午前5時までの間の労働)に対するものがあります。その際の割増賃金は以下の通りです。
- 時間外労働 25%以上
- 休日出勤 35%以上
- 深夜業(午後10時から翌日午前5時までの間の労働) 25%以上
なお、割増賃金は重複して発生する場合もあります。
例えば、時間外労働が深夜業となった場合、合計50%以上(25%+25%)の割増賃金を支払う必要がありますし、休日労働が深夜業となった場合は60%以上(35%+25%)の割増賃金を支払う必要があります。
また、時間外労働については限度が定められており、原則として1か月45時間、1年360時間を超えないものとしなければなりませんので、ご注意いただければと思います。
特に外国人の場合は異国で搾取されないようにと自分たちの身を守るために、労働基準法に違反がないか給与明細を細かく確認していることが多いです。そのため、特定技能外国人が入社した後、賃金についてトラブルにならないように、タイムカードなどで労働時間の記録を正確に行う必要があります。
出典:厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について教えてください。」
3-3. 手当や賞与の支給は平等に
前述の通り、特定技能外国人の報酬額は比較対象となる日本人と同等以上でなければなりません。
そのため、比較対象となる日本人従業員に手当や賞与が支給されている場合は、特定技能外国人に対しても同等以上に支給しなければなりません。
3-4. 給与控除はわかりやすく説明する
特定技能外国人も労働基準法が適用されるため社会保険への加入が必須となります。
そのため、給与から控除されるものも特定技能外国人は日本人従業員と同等です。
例えば、以下について控除がされます。
- 厚生年金
- 雇用保険
- 住民税
- 源泉所得税
- 介護保険(40~60歳まで)
- 住宅控除(社宅の準備をする場合)
そのため、特定技能外国人がこれらの項目について給与からの控除があるということを事前に母国語で説明し、理解をしてもらう必要があります。
外国人の理解が不十分である場合、外国人が想定していた手取り金額とよりも実際の手取り金額が少なくなってしまい、入社後外国人からの不満や不信感に繋がり離職やトラブルの原因にもなりかねません。
実際に、特定技能外国人の転職相談を受けていると説明を受けていた雇用条件と実際の雇用条件が異なるという理由で転職を考えている外国人も多いため必ず登録支援機関に依頼などをし、母国語での実施を行いましょう。
4. 技能実習生や特定技能外国人から給与交渉を受けた場合はどうしたらいい?
自社で雇用している技能実習生や特定技能外国人から給与交渉を受けた場合には、必ず話し合いに応じた方がいいでしょう。
日本人従業員の給与水準と整合性を保つ必要があるため、簡単に昇給をすることはできないかと思いますが、話し合いにも応じない場合、特定技能外国人は将来的な昇給についても見込めないと判断し、転職をしてしまう可能性が高いです。
そのため、大切なのは給与交渉に応じる姿勢です。特定技能外国人が希望する給与条件を提示できないとしても、賃金規定や評価基準を用いてその理由を説明をし、昇給のための条件を理解してもらうことができれば転職を防止することができる可能性があります。
しっかりと特定技能外国人に理解してもらう必要があるため登録支援機関などに依頼をし、母国語で説明を行う必要があるでしょう。また、もし評価基準が明確でない場合はまずは評価基準の作成を行い、特定技能外国人に説明できるようにしておく必要があります。
特定技能外国人が離職してしまっては、再度紹介会社への紹介料が発生したり、新規人材の入社まで現場が人員不足になり離職の連鎖を産んでしまうことがあるため給与交渉については真摯に対応することをお勧めします。
このように採用後に給与についてもめることが無いよう、企業は外国人の採用面接の時点で求職者と互いの条件をすり合わせておく必要があります。
そこで、外国人の採用面接を控えている日本企業向けに外国人の採用面接では何を聞いたらいいのかについて簡単にまとめた「外国人採用面接質問シート」をJJSが独自で作成しましたので是非ダウンロードしてご覧ください。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか。
特定技能外国人の採用や定着のために給与条件は重要な要素です。また、特定技能外国人の給与設定にはルールがあり、ルールを守らないと罰則がある可能性があります。
まずは日本人と同等以上の給与条件ということを守り、適切な特定技能外国人の受け入れを進めて行っていただければと思います。
その上で、自社の給与条件で特定技能外国人から応募をもらえるか心配とお考えの人事担当者様もいらっしゃるかと思います。
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