【随時更新中】入管法改正で何が変わった?行政書士がわかりやすく解説

執筆者:井上道夫(行政書士井上法務事務所所長)

入管法は、1951年(昭和26)年10月に公布されました。その後、時代や国際情勢の変化に対応するために、何度か改正されています。特に、最近改正され2019年(平成31年)4月に施行された「改正入管法」は、それまでの規定に比べて、その内容が大きく変わっています。ここでは、入管法改正で何が変わったのか、詳しくご説明いたします。

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目次

1.入管法とは?

そもそも入管法とは何なのかについて解説します。

1-1.入管法の歴史

入管法は、正式名称を「出入国管理及び難民認定法」と言います。文字どおり、外国人の入国、出国、在留、外国人の在留資格、難民認定などを規定した法律で、1951年(昭和26)年10月に公布されました。

その後、1982年(昭和57年)の改正では、戦前から日本に住んでいる韓国人、朝鮮人、台湾人の特定永住権が認定されました。1980年代後半~1990年(平成2年)の改正では、在留資格の明確化や不法就労者の雇用者に対する厳罰化が規定されました。これは、この時期に外国人の不法入国、不法就労が社会問題となったためです。

また、2009(平成13年)年の改正では、日本に在留する外国人に在留カードを交付することが決まりました。さらに、今回説明する2019年(平成31年)の改正では、新たな在留資格として「特定技能」の制度が作られました。

在留カードについてはこちらの記事をご覧ください。

特定技能に関してはこちらの記事をご覧ください。

1-2.いままでの入管法の問題点

以上のように、入管法はその時の時代背景や国際情勢などに対応できるように、改正を重ねてきました。しかし、2019年以前の入管法では、日本で働きたいと希望する外国人にとっては、多少ハードルが高い制度でした。これは、日本政府が、不法就労者に対して厳しい姿勢を取っていたことの現れとも言えます。

しかし、日本における少子高齢化が加速度的に進み、生産人口の減少もかなり深刻な事態となったことで、慢性的な人手不足に陥っている業界が増加してきています。2019年以前の入管法は、このような社会情勢に対応していなかったということになります。

2.入管法改正で何が変わった?

2019年の入管法改正では、一体何が変わったのでしょうか。また、どのような点が問題なのでしょうか。

2-1.入管法改正の変更点

今回の入管法の改正で最も大きく変わった点は、新たな在留資格である「特定技能」の制度が創設されたことです。

改正入管法以前は、外国人が単純労働を行うためには、「外国人技能実習制度」を利用してきました。しかし、この制度の目的は、あくまでも外国人が知識や技能を日本で得た上で本国に戻った後、その知識や技能を本国で活かしてもらおうというものでした。従って、日本の人手不足を解消する役割目を果たすことは、できませんでした。

そこで、改正入管法では、14の分野に絞って、人手不足を解消するために技能実習制度よりも柔軟な基準を設けた「特定技能」の制度が作られたのです。例えば、技能実習制度は、受け入れ国の数が15ヵ国に限定されていましたが、特定技能では原則自由です。

また、技能実習制度では、外国人を受け入れる場合、関係機関が関与するために手続きが煩雑ですが、特定技能の場合は、外国人と会社が直接雇用契約を結ぶことになり、かなり手続きがシンプルになります。さらに、技能実習生の低賃金が常に問題になっていましたが、特定技能では、日本人と同じ賃金水準でなければなりません。

特定技能が創設されたことで、特に地方の農業や漁業など、慢性的な人手不足に悩んでいた産業分野では、人手不足の解消、労働力の増加が見込まれることになりました。また、技能実習制度では、転職の自由が認められず、しかも実習という名の下で、低賃金かつ過酷な労働を強いられてきましたが、特定技能では、このようなデメリットが解消されることになったのです。

技能実習に関してはこちらの記事をご覧ください。

技能実習と特定技能の違いに関してはこちらの記事をご覧ください。

2-2.入管法改正の問題点

以上のように、今回の入管法改正では、日本の産業界に大きなメリットを与えることができることになりました。しかし、決して問題点がないわけではありません。

まず、創設された「特定技能」では、12の分野のみに絞られているという点です。確かに、介護、建設、自動車整備、宿泊、農業、漁業など、常に人手不足の問題を抱えている分野が対象になっていますが、日本全体を見回してみると、12分野以外にも慢性的な人材不足に悩んでいる産業も数多くあります。ですから、この12分野だけに「特定技能」の制度を作ることで良いのかという問題があります。 

また、特定技能には、1号と2号があります。例えば、1号では最長在留可能期間が5年ですが、2号になると上限がありません。また、1号では配偶者や子どもなどの家族が帯同することは認められませんが、2号ではそれが可能です。

このように、特定技能2号という在留資格は、日本に生活の拠点を置きたい外国人にとっては、垂涎の的と言えるものですが、現実には、この2号を取得している人は皆無に近い状態です。しかし、以前は特定技能2号の対象分野が建設と造船・舶用の2分野のみだったのが、2023年6月に改正されて介護以外の11分野に広がったので、今後は特定技能2号取得者が増える見込みです。

特定技能2号の拡大についてはこちらの記事で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。

特定技能についてさらに詳しく知りたい方は「特定技能まるわかり資料」をダウンロードください

3.2022年|入管法改正後の現在

入管法改正後、現在どうなっているのでしょうか。改正後の今を解説します。

3-1.特定技能の現在

参考:出入国在留管理庁 令和5年6月末

出入国管理庁は、3ヶ月ごとに特定技能在留外国人数を公表しています。それによると、2022年(令和4年)12月現在、「特定技能1号」の外国人の数は、173,089人となっています。その中で最も人数が多いのは、「飲食料品製造業分野」の53,282人、その次に多いのは「製造分野」(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業)の35,641人です。

参考:出入国在留管理庁 令和4年12月末

また、国籍別・地域別で最も多いのは、ベトナムの97,485人、その次に多いのは、インドネシアの25,337人です。さらに、都道府県別の数を見ると、最も多いのは愛知県の14,737人、次に多いのは大阪府の10,361人です。

一方で、「特定技能2号」の外国人の数は、12人です。全員「建設分野」で、中国人7人、ベトナム人5人となっています。

今後は特定技能2号の対象分野が拡大したこともあり、ますます増加するものと思われます。

特定技能1号と2号の違いについては以下の記事で詳しく説明しています。

3-2.在留資格の現在

「特定技能」を含めた在留資格全体の現状は、次のようになっています(数字は全て令和4年末)

参考:出入国在留管理庁 令和4年末現在における在留外国人数について

まず、現在日本に在留している外国人の数は、3,075,213人で過去最高を更新しました。このうち、中長期在留資格者が2,786,233人、特別永住者が288,980人です。特別永住者とは、1952年サンフランシスコ講和条約が発効時点で、日本に住んでいた韓国人・朝鮮人・台湾人やその子孫です。

在留者の国別・地域別では、中国がもっと多く約76万人です。その次に多いのが、ベトナムの約49万人です。また、在留資格別では、永住者の約86万人が最も多く、技能実習の約32万人技術・人文知識・国際業務の約31万人と続きます。

さらに、都道府県別では、東京都の約57万人が最も多く、愛知県の約26万人大阪府の約24万人と続きます。つまり、関東圏、中京圏、関西圏という大都市圏に在留者が多いことがわかります。

参考:出入国在留管理庁 令和4年末現在における在留外国人数について

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4.入管法改正による企業のメリット・デメリット

ここからは、私が考える、入管法改正における企業のメリット、デメリットを解説します。

4-1.入管法改正による企業のメリット

今回の入管法の改正によって、企業には大きなメリットがあります。

まず1つ目は、労働者不足の解消です。
先程ご説明したように、長年日本では、特定分野での慢性的な労働者不足に悩まされていました。特に、農業、漁業、製造業分野では、都市圏、地方を問わず、人手不足が続き、その結果経営を圧迫していました。しかし、今回の改正によって、徐々に労働者不足が解消される可能性が出てきました。

2つ目は、地方の活性化です。
少子高齢化と同時に、現在の日本にとっての大きな問題は、地域間の大きな格差です。日本の人口は減少傾向にありますが、都市圏は微増であるにもかかわらず、地方の人口の減少傾向はかなり深刻です。それによって、多くの産業において労働者が不足しており、地域経済は疲弊し、地域が衰退して言っています。これによって益々人口が減少するという悪循環に陥っています。しかし、今回の改正によって、地方の労働者不足が解消され、活性化していくことが期待されます。

3つ目は、生産性や業績の向上です。
今回の改正によって、高度なスキルを持った外国人を雇い入れることができます。そうなることで、企業などの生産性や業績が向上することが見込まれます。また、外国人労働者が地域に定住し、消費することで、地域の経済も活性化することになります。

4-2.入管法改正による企業のデメリット

今回の入管法の改正によって、企業にはデメリットもあります。

まず1つ目は、雇用環境の悪化です。
今まで日本人しか雇っていなかった企業にとって、初めての外国人労働者に対して、どのように対応して良いか戸惑うかもしれません。また、日本人であれば、労働時間の延長や休日出勤に対して抵抗がないかもしれませんが、権利を主張する外国人労働者は、入管法などを盾にして、雇用主の思うように働いてくれない可能性もあります。

2つ目は、日本の労働者への影響です。
今回の改正の創設された「特定技能」制度によって、質の高い外国人労働者を雇用できるというメリットがありますが、裏を返せばそれだけ日本人労働者の雇用機会が減少することになります。企業としては、優秀な外国人労働者には来てほしいが、日本人の雇用機会が減るということになりますので、企業にとって悩ましい事態と言えます。

5.入管法改正で企業が気をつけるべきこと

今回の入管法改正の最大の特徴は、「特定技能」の創設です。この点で、企業が注意すべきことは、以下のとおりです。

5-1.雇用契約の明確化

先程もご説明しましたが、技能実習制度と違って、特定技能は外国人と会社が直接雇用契約を結ぶことになります。さらに、今まで技能実習生の低賃金が常に問題になっていましたが、特定技能では、日本人と同じ賃金水準でなければなりません。

このような点から、「特定技能雇用契約」を結ぶ際には、以下の項目に十分注意する必要があります。

  1. 分野省令で定められた技能を必要とする業務に従事させること
  2. 所定労働時間が通常労働者と同じ水準であること
  3. 給与・報酬の金額は、日本人と同じ水準であること
  4. 給与・報酬の金額の決定、教育訓練の実施、福利厚生面については、外国人であることを理由とした差別的扱いをしないこと
  5. 外国人労働者が一時帰国を希望した場合には、休暇を与えること
  6. 派遣の対象とする場合には、派遣先・期間が決められていること
  7. 外国人が帰国のための費用が不足する時は、雇用主が負担したり、必要な措置を講じたりすること
  8. 外国人の健康状態や生活状況などを把握し、必要な措置を講じること
  9. 分野に特有の基準に適合していること

5-2.社内研修などの計画

技能実習生とは違って、特定技能制度では、上記でご説明したとおり、直接雇用契約を結びます。
従って、企業の戦力の一人として、雇い入れることになります。ただし、雇用した外国人労働者が、即戦力となるとは限りません。そのためには、日本の風土、企業環境に慣れるまでに、企業側のフォローが必要です。

そう考えると、外国人労働者には、他の日本人労働者よりも手厚い支援を行わなければなりません。具体的には、社内研修などを綿密に企画して、実施していくことになります。また、企業は、外国人労働者を受け入れる体制を整備し、地道に社内風土を築いていくことも重要になってきます。

さらに、雇用主だけでなく、今まで働いてきた日本人労働者にも、新たに働く外国人労働者を受け入れるための意識改革が必要です。この点も、雇用主が研修などによって、実施しなければなりません。

6.まとめ

今回の入管法改正の最も大きな特徴は、「特定技能制度」の創設です。これによって、人手不足に苦しむ産業分野の手助けになることが、期待されます。但し、雇用契約書の明確化や支援計画の作成、さらに実際の支援など、企業の負担が増えることにもなります。その点を十分理解した上で、活用することが大切です。

弊社では主に特定技能外国人の人材紹介と支援を行っております。また、特定技能外国人を採用する企業様も支援しておりますので、何かお困りのことがございましたらお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

行政書士井上法務事務所の代表行政書士。平成20年7月に、福岡市早良区で行政書士事務所を開業。扱っている案件は、主に相続・遺言、民事法務(内容証明・契約書・離婚協議書等)、公益法人(社団・財団法人)関係業務、在留資格関係など、幅広く対応。

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