介護士として外国人労働者を採用する4つの採用方法・課題・問題点
執筆者:竹村(JapanJobSchool講師兼就職支援室マネージャー)
監修者:麥生田 勇(行政書士)
現場の施設長の方、エリアマネージャーの方など、人材不足から外国人介護士の採用に興味はあるけれど、詳しい制度については分からない、という方は多いと思います。
筆者は大学卒業後、新卒で有料老人ホーム運営などしている介護事業者に入社し、現場・本社と約3年間経験しました。現在は日本で就職したい外国人が通う就職予備校の教員として、外国人留学生を3,000人以上指導した実績があります。
そこで、本記事では外国人介護士を雇用する際の採用方法や課題など、なるべく現場の方の目線でまとめました。
雇用する際の注意点や実際の雇用例を分かりやすく説明します。今後の採用の参考になりますと幸いです。
実際に特定技能で働いているベトナム人介護士の方にインタビューを行いました。なぜ日本で働こうと思ったのか、どんなことを大切にして働いているのか知りたい方はぜひご覧ください。
1.介護分野における受け入れの現状
介護業界は、将来的に大きな人材不足の課題に直面すると予想されています。業界では、さまざまな対策が講じられていますが、これらの対策だけでは不足している労働力を十分に補えない部分があります。そのため、外国人を介護職員として積極的に採用する事務所や施設が増えています。
「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針の一部変更について」によると、介護分野における令和6年度からの向こう5年間の受け入れ見込み数は、最大で13万5,000人であり、これを令和10年度末までの5年間の受け入れ上限として運用するとしています。
介護人材については、多様案人材の確保や育成、離職防止などの介護の仕事の魅力向上や人材確保のための総合的な取り組みを進めており、令和元年から令和4年度にかけて平均1万6,000人程度増加しています。これは、外国人が介護分野で働きやすくなったことが明らかになり、今後より多くの受け入れを期待できます。
1-1.【最新情報】訪問介護を特定技能外国人も従事可能に
厚生労働省が外国人人材の介護訪問サービスについて、今は認められていない在留資格「特定技能」の人も従事できるようになります。2024年3月22日、厚生労働省の有識者検討会で大筋了承され、2025年度の実施を見込んでいます。
訪問介護サービスでは、介護を必要とする個人宅を訪れ、直接サービスを提供する形態が基本です。これまでは、在留資格「介護」の保持者、または介護福祉士の資格をもつ経済連携協定(EPA)の出身者に限られていましたが、今回の検討で特定技能に加え、技能実習とEPAに基づく介護福祉士の候補者が解禁されます。この3資格で介護現場で働いているのはおよそ4万6000人に上ります。
訪問介護に関する人手不足は深刻化しており、訪問介護のサービスを受ける人は介護サービス全体の2割程度ですが、需要は年々増えいています。訪問系の22年度の有効求人倍率は15.5倍で、施設勤務の介護職員はおよそ4倍にもなっています。
厚生労働省は、検討会での議論を踏まえて、特定技能などの訪問介護の解禁について要件を具体化し、順次実施する予定です。
2.介護士として外国人労働者を採用する4つの方法
外国人を雇用するには、現在4つの採用方法が存在します。
- EPA
- 介護ビザ
- 技能実習制度
- 特定技能1号
1-1.外国人を受け入れたことがなくても安心して採用できる「EPA」
①制度の目的 | 経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)の略称。貿易の自由化や投資、人の移動、知的財産の保護などのルール作り、様々な分野での協力など、幅広い経済関係の強化を目的とする協定のこと。下記3か国の人材が介護福祉士の取得を目指すために制度を導入している。 |
②特徴 | 採用できる国籍はインドネシア・フィリピン・ベトナムのみ。転職は不可。 |
③期限 | 介護士の場合、最大4年。4年目に介護福祉士の試験に合格しなければならないため、そのために研修や教育を行わなければならない。 |
④導入方法 | 受け入れ調整機関は公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)の1つだけ。JICSWELSの受け入れ基準を満たす必要がある。下記、条件の一部。 ・介護福祉士養成施設における実習施設と同等の体制が整備されていること ・介護職員の員数が、法令に基づく職員等の配置の基準を満たすこと ・常勤介護職員の4割以上が、介護福祉士の資格を有する職員であること |
参考:2023年度版受入れ介護福祉士候補者手引き.pdf (jicwels.or.jp)
このEPAは2008年から始まった制度で歴史もあり、また公益社団法人「JICWELS」が万全に管理をしていることから初めて外国人を雇用する企業も安心して採用することができるでしょう。
また、母国で看護師免許取得、また看護専門学校等で専門の教育を受けているなどの基礎知識があり、日本語研修を6か月受講した人材である為、即戦力としても採用できます。しかしその分需要も高いので求人を見つけることが難しいかもしれません。
また、平成25(2013年)年から介護福祉士候補者の受け入れ人数は急激に増加していましたが、厚生労働省の最新の統計によると、3か国全体の介護福祉士候補者の受け入れ人数は、各国300人/年という制限はあるものの、平成30年(2018年)の773人から令和3年(2021年)の655人と微減しています。
1-2.在留期間の制限なく、即戦力として採用できる「介護ビザ」
①制度の目的 | 介護福祉士の資格に合格した外国人が介護又は介護の指導を行う業務に従事するためのもの。 |
②特徴 | 国籍に制限なし。この中で唯一、業務制限が無いので訪問系サービスなども従事できる。長期雇用可能。転職可。 |
③期限 | 5年、3年、1年又は3か月。都度、更新可。 |
④導入方法 | 自社で募集、もしくは人材紹介会社などを通して募集する。即戦力人材なので人材を探すのが比較的難しい。留学生のころから介護福祉士養成施設を通して育成するルートもある。 |
参考:在留資格「介護」 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
介護ビザは介護福祉士の国家試験に合格した外国人に与えられる在留資格で、永続的に働いてもらうことが可能です。
ただ介護と日本語のスキルがあり、在留資格の更新に制限がない即戦力人材となるため、人材を見つけるのは非常に難しくなります。また外国人側にとっても、介護知識も日本語知識も両方問われる介護福祉士の国家資格を取得するのは容易ではありません。
ただ日本で長く働くために、特定技能から介護ビザに移行したいという外国人も増えてきているので今後増加することに期待です。
1-3.スムーズに受け入れを行える「技能実習」
①制度の目的 | 開発途上国の人材に日本の技術を教え、母国での発展に活かしてもらうための国際貢献。 |
②特徴 | 入国1年目が技能実習1号、2~3年目が技能実習2号、4~5年目が技能実習3号と区分けされており、実技試験や学科試験に合格しないと継続することができない。また、転職は不可。 |
③期限 | 最長5年。但し、技能実習2号まで終えていれば無試験で特定技能1号に移行可能。 |
④導入方法 | 海外拠点のある企業が現地法人の職員を受け入れる「企業単独型」、協同組合など管理団体を通して受け入れる「団体管理型」の2種類。 |
参考:技能実習「介護」における固有要件について (mhlw.go.jp)
技能実習は「我が国で培われた技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的」としています。要するに、日本の進んだ技術を海外に移転することが制度の目的とされているのです。
このような制度設計が前提とされている為、技能実習計画に沿った丁寧な研修をする必要があります。また一人で夜勤ができないなどの就労制限もあります。
ただ技能実習は規模が大きいため人材を見つけるのはそこまで難しくなく、「監理団体」という技能実習生のサポートを行う団体があるのでスムーズに採用することができるでしょう。
技能実習について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
1-4.即戦力としても従事でき、人材も見つけやすい「特定技能1号」
①制度の目的 | 日本の人材不足を解消するためのもの。 |
②特徴 | 訪問サービス以外の身体介助、支援業務が可能。また、転職も可能。 |
③期限 | 現状、最長5年。期間内に介護福祉士の免許を取得し、介護ビザに変更可能。 |
④導入方法 | 自社で募集、もしくは人材紹介会社などを通して募集する。雇用する外国人の支援を行う必要があるため、自社で行うか、「登録支援機関」に代行を依頼するか、選択する必要がある。 |
参考:特定技能在留外国人数の公表 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
特定技能制度 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
「特定技能」とは人手不足を解消するため2019年4月に新しく創設された制度(在留資格)です。介護のほか、建設や製造業、飲食などの14業種が対象となっています。
特定技能を取得するには技能実習から移行するか、日本語試験、介護日本語評価試験、介護技能評価試験の3つの試験に合格する必要があるのである程度日本語力があり、介護の知識もある人材を採用できます。
また、現在特定技能介護の外国人が急増しており、今後さらに注目を浴びることが予想されます。
人材不足解消を目的にしているのは特定技能1号だけ
4つの採用方法の内、この特定技能1号だけ日本の人材不足解消を目的とした制度とされています。在留人数が特定技能1号だけ20,000人を超えていることからも明らかでしょう。それだけ母数が多いということは、単純に人材も確保しやすいというメリットがあります。
特定技能「介護」についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
特定技能についてさらに詳しく知りたい方は「特定技能まるわかり資料」をダウンロードください
1-5.介護福祉士試験に合格するためには
介護福祉士の資格を取得し、介護ビザを取得すれば、在留期限を更新し続けることができます。前述した各制度には介護福祉士試験に合格する要件に違いがあります。
①EPA | 入国後、3年間施設にて実務を積み受験する。筆記・実技試験あり。 |
②技能実習制度 | 実務経験が3年以上かつ実務者研修の受講が必要。筆記試験のみ。 |
③特定技能1号 | 実務経験が3年以上かつ実務者研修の受講が必要。筆記試験のみ。 |
2.外国人介護士を採用するメリットとデメリット
2-1.メリット
- 人材不足解消(特に若い人材)
特に過疎化の進む地方では、若い介護職の成り手は貴重な人材かと存じます。外国人、特に海外から来日する人材はあまり場所にこだわりのないことが多いので、日本人に代わる貴重な戦力と言えるでしょう。 - 既存の日本人社員の成長に繋がる
先述のように、「どのように外国人材に仕事を理解してもらうか」を考えることにより、色々なことを考えるきっかけが生まれ、それがより良い職場つくりの一環となる効果が期待できます。また、外国人ならではの意見やアイデアを取り入れることにより、レクリエーションなどに新たなサービスを導入するきっかけにもなるかもしれません。 - 移民や外国人労働者が増える中で先んじて国際化できる
これから日本も他国のように移民や外国人労働者の更なる増加が見込まれる中で、複数の言語に対応できる職員が在職していることは大きな強みになるでしょう。実際に、日系ブラジル人の定住者の方などは今後高齢化に伴い、介護サービス受給者が増加すると見られています。 - 将来のビジネスに繋がる
日本で働く外国人の中には、永住を希望している人もいれば、いつかは帰国を考えている人もいます。日本の介護施設で得た技術・経験を基に現地で介護サービスの事業所を始める人もいずれは出てくるでしょう。少し突飛な話ではありますが、その際に海外にフランチャイズ展開をしたり、その国の商習慣に合わせたサービスを提供できる可能性があります。
2-2.デメリット
- 日本人より採用・維持費にコストがかかる
ハローワークで採用することも可能な日本人に比べ、採用時の費用が発生するケースが多いです。また、入社後のサポートなどランニングコストが発生し、日本人を雇用するより費用がかかります。
※各ビザによりかかる費用(1人あたり。おおよその相場のものも含む)
①EPA | 360,000円(税込み/JICSWELに支払い)、その他、介護福祉士試験の教育費や住宅費など別途発生 |
②介護ビザ | 500,000円~(人材紹介会社経由の場合) |
③技能実習制度 | 500,000円~(実習開始まで/団体管理型の場合)、その他、管理費など3,0000円~/月 |
④特定技能1号 | 300,000円~(人材紹介会社経由の場合)、その他、登録支援料20,000円~/月 |
- 日本語能力不足におけるコミュニケーション不全や事故のリスク
こちらも2-2の項目で述べた通り、簡易的な表現や具体的な言葉に置き換えたり、専門的な日本語の教育など対策を講じていく必要があります。 - ビザによっては数年後に帰国する可能性がある
介護ビザは該当しませんが、その他のビザでは試験等に合格しなければ継続して日本に在留することができません。せっかく仕事を覚えても帰国してしまう可能性があります。但し、1-5の項目で述べた通り、介護福祉士試験に合格すれば、介護ビザへの切り替えが可能になります。
参考:2023年度版受入れ介護福祉士候補者手引き.pdf (jicwels.or.jp)
特定技能制度 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
介護分野における特定技能外国人の受入れについて | 厚生労働省 (mhlw.go.jp)
日本在住の日系人も老後の時期にきたのか – ディスカバー・ニッケイ (discovernikkei.org)
特定技能外国人を雇うとどのくらいのコストがかかるのか詳しく知りたい方は「特定技能外国人コスト一覧表」をダウンロードください
3. 外国人介護士の給与・日本語レベル
メリット・デメリットが分かった上で、こちらでは外国人介護士に支払う給料や日本語レベルについて見ていきましょう
3-1.給与
賃金のみで並べると下図のようになります。
原則的には、日本語能力や国籍などを理由に日本人の同職位の方より賃金を下げてはなりません。また、介護ビザの場合、希少な人材となるため、転職などの予防のために他のビザより給与水準も高めになる傾向にあります。
参考:2023年度版受入れ介護福祉士候補者手引き.pdf (jicwels.or.jp)
技能実習生の労働条件の確保・改善のために_再校 (mhlw.go.jp)
特定技能制度 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
3-2.日本語レベル
先述の課題・問題点の欄にも書きましたが、採用方法によって要求される日本語レベルは様々です。
こちらは日本語能力試験の各レベルの指標になります。
各在留資格に求められる日本語力を見ても介護ビザ取得者は日本語能力が抜きん出ていることがわかります。介護福祉士試験に合格するためには相応の日本語能力を有していなければならないことを示しています。その他のビザでは、日本語能力が向上するまで現場で教育していく必要があります。
参考:N1~N5:認定の目安 | 日本語能力試験 JLPT
2023年度版受入れ介護福祉士候補者手引き.pdf (jicwels.or.jp)
技能実習生の労働条件の確保・改善のために_再校 (mhlw.go.jp)
特定技能制度 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
外国人介護士の日本語力を向上させるには施設側の協力が不可欠です。
4.外国人介護士を採用する際の注意点
4-1.外国人の日本語能力に注意する
介護福祉士を除く3つの制度で日本語能力試験N4相応(EPAのベトナムのみN3)で働けてしまうため、日本語能力不足におけるコミュニケーション不全や事故のリスクなどが潜在していることも事実です。
N4というと、日本語能力試験のサイト上でも「基本的な日本語を理解できる」となっており、私個人の感覚からしても片言の日本語能力となってしまいます。
これは実際に触れあってみてわかることですが、我々日本人が無意識の内に使っている日本語でも彼ら外国人には理解するのが難しいことも多々あります。例えば、「理解できますか?⇒わかりますか?」「大丈夫です⇒やっていいです」と言わないと伝わらない外国人は多いです。このように簡易的な表現や具体的な言葉に置き換えなければいけません。
介護現場は専門的な日本語が飛び交うことも多いので、そのような言葉を理解できるまでに時間がかかるのは否めないでしょう。
また、利用者の方の命を預かっているため、何かを指示するときについ早口になってしまうことも多いと存じますが、早口で話すと外国人ではヒアリングできないことも多々あります。よく理解できていないまま介助に入ってしまい事故が起きてしまう、といったリスクを減らすために対策を考えなければなりません。
4-2.外国人の転職に注意する
転職が可能な在留資格では外国人が転職しないよう気を付けましょう。何を気を付ければよいかというと「人間関係」です。外国人労働者が転職、離職してしまう主な原因は職場の人間関係や不十分なコミュニケーションだというデータがありますように、外国人とは日本人以上にしっかりコミュニケーションをとる必要があります。
外国人労働者とのよりよいコミュニケーションをとる方法はこちらの資料にまとめてありますのでぜひご覧ください↓
「外国人労働者とのコミュニケーションマニュアル」
5.雇用実例
当校は特定技能の登録支援機関(特定技能受入企業は10項目の支援が義務付けられており、その支援を代行できる機関)としての資格を有しており、介護だけで計140名以上の支援を行っている実績があります。
今回はその中より下記の雇用実例をお伝え致します。
Nさんは現在、特定技能1号(介護)にて山口県のデイサービスで勤務しています。
元々、ベトナム在住時から介護の仕事に興味があったものの、介護の技能実習生として日本に行くのには他の業種より時間がかかると知り、まずは製造業の実習生として来日しました。
日本在住後、特定技能ビザに介護があることを知り、3年間の技能実習を終えた後、介護技能評価試験(特定技能で働くために必要な試験。介護現場で介護業務をする上で支障のない程度の水準)に合格し、ビザを切り替えました。
会社の上司や先輩方が最初から熱心に教えてくださったおかげで、仕事にも早く慣れることができました。特に社長さんと外国人監督者の方には感謝しているというNさん。下記のように目を輝かせて話してくれました。
「特に社長と監督者さんは私の人生において出会えてよかった本当に素晴らしい方々です。私が車の運転免許を取得した後、社長は使っていた車を私にくれました。本当に幸せです。心から感謝しています。時々私も車で通勤します。今の会社はただの職場ではなく、家族のような存在です。」
企業の方からも貴重な戦力として、お褒めの言葉をいただいています。
Nさん本人も「周りの人が助けてくれるのだから自分もがんばろう」と良い関係性を築けていることが伺えます。
6.まとめ
外国人介護士を雇用する際の採用方法や課題など、お分かりいただけましたでしょうか。
昨今の日本の人口減少により、遅かれ早かれ、国内の様々な分野に外国人材が入ってくることは、今後避けられないことです。介護業界も例外ではありません。
それぞれの制度によって特徴があるので、まずはどの制度が自社・自施設に合うのか見定め、前向きに検討されてみてはいかがでしょうか。
もし、外国人介護士の採用をご検討されていれば、無料相談を行なっているので、まずはお気軽にJapan Job Schoolにお問い合わせください。