特定技能「介護」とほかの在留資格を徹底比較!試験や採用時の注意点なども詳しく解説

執筆者:大路(JapanJobSchool CSマネージャー)
少子高齢化により、介護業界は深刻な人手不足に直面しています。厚生労働省によると2040年までに現在比+約47万人の約280万人の介護職員が必要になります。
まだ外国人労働者がいない施設の方でも「そろそろ外国人介護職員を雇わないといけない」「でも介護分野での在留資格の種類が分からない」「特定技能で採用するメリットってなんだろう…」と考えている方が多いと思います。
この記事を読めば、明日からでも特定技能「介護」で外国人を採用するために行動することができます!ぜひ最後までお読みください。
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1. 特定技能「介護」とは
1-1.特定技能「介護」
そもそも在留資格「特定技能」は、生産性向上や国内人材確保の取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難である産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的に、2018年に新設された在留資格です。
出入国管理庁が発表した先5年間の各特定産業分野の受け入れ見込み人数は、介護分野が14の分野の中で最も多い6万人でした。次いで外食業が5万3千人、ビルクリーニングが3万7千人です。他の特定技能分野に比べても、外国人の採用が急務であることが分かります。
2017年から在留資格「技能実習」や「介護」、さらに「特定活動(EPA)」で介護分野に外国人を採用することは可能でした。しかし「介護」と「特定活動(EPA)」は母数が少ないこと、「技能実習」は介護についての知識が何もない外国人を育成しなければいけないという点があり、介護分野での外国人採用数は伸び悩んでいました。
そんな中、2018年に新たに「特定技能(介護)」ビザで外国人を採用することが可能になりました。
出典:厚生労働省「介護人材確保に向けた取り組み」
「介護サービス施設・事業所調査」(介護職員数)
在留資格「特定技能」について
1-2. 受け入れ可能な業務内容
外国人を特定技能「介護」で受け入れ可能な業務内容は以下の通りです。

2.介護業界の現状
2-1. 介護業界の人手不足
この記事をお読みの方はご存知だと思いますが、介護業界は深刻な人手不足に陥っています。
現在までの介護職員の推移は以下の通りです。

令和3年度の統計を見ても、要介護者が688万人であるのに対して、職員数は214.9万人しかいません。介護保険法の人員配置基準で、最低でも利用者3人に対して1人の介護職員が必要だと定められています。現在の時点ですでに、人員配置基準を満たせるか満たせないかの瀬戸際の人数しか介護職員がいないことが分かります。
また、今後少子高齢化が進むとともに必要となってくる介護職員数は以下の通りです。

現在約214万人ですが、17年後の2040年にはさらに約47万人の介護職員が必要であると分かります。これは1年で3.3万人ずつ職員を増やさなければならないという状況です。急速に進む少子高齢化社会を支えるためにはこれだけの介護職員が必要になり、それを日本人職員だけで支えることに限界が見えてきました。
3. 介護職で採用できるほかの在留資格と比較
外国人介護職員を採用しようと思ったときに、大きな障壁となるのが、介護職で採用できる在留資格が複数あることです。現在では特定技能「介護」の他に、在留資格「介護」、EPA介護福祉候補者、技能実習生の3つの在留資格があります。
それぞれの概要は以下の通りです。

3-1. EPA介護福祉士候補者
EPAはインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国の二国間経済連携強化のために作られ、日本での介護福祉士の資格取得を目標に4年間日本で働くことができる在留資格です。 母国で看護系の学校を卒業したか、介護福祉士の資格を持っている外国人ですので、在留資格「介護」に続いて能力は高いです。
一方で、3か国からしか外国人を募集できないので母数が少ないことと、フィリピン・インドネシアは日本語要件が日本語能力試験N5程度ですので、十分にコミュニケーションを取れるほどの日本語能力を持った外国人だとは限らないことがデメリットです。
3-2. 在留資格「介護」(介護ビザ)
他の在留資格と異なり、唯一、介護福祉の資格を持った外国人を採用できるため、即戦力になるというメリットがあります。また、他の在留資格ではできない訪問系サービスの業務にも従事できます。
一方で介護福祉士試験に合格できる外国人は少なく、2022年末で千人以下であり、同じ時期の特定技能「介護」(約1万6千人)の十分の一以下の人数しかいません。
3-3. 技能実習
本国への技能移転を目的とした在留資格です。技能実習生は日本語と介護の実習を受けてから介護福祉施設で働き、1年後の試験に合格すれば追加で2年間働くことができます。その2年後の試験で合格すればさらに2年間技能実習を受けることができます。
技能実習生は採用人数も最も多く、成熟してきた制度ではありますが、技能実習生には制約が多く、受け入れ先の介護施設とのトラブルが起きやすいことがデメリットです。
4. それぞれの在留資格のメリット・デメリット

4-1.EPAのメリット・デメリット
参考:2023年度版受入れ介護福祉士候補者手引き.pdf (jicwels.or.jp)
4-2.介護ビザのメリット・デメリット
参考:在留資格「介護」 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
4-3.技能実習制度のメリット・デメリット
参考:技能実習「介護」における固有要件について (mhlw.go.jp)
4-4.特定技能のメリット・デメリット
参考:特定技能在留外国人数の公表 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
特定技能制度 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)

人材不足解消を目的にしているのは特定技能1号だけ
4つの採用方法の内、この特定技能1号だけ日本の人材不足解消を目的とした制度とされています。在留人数が特定技能1号だけ20,000人を超えていることからも明らかでしょう。それだけ母数が多いということは、単純に人材も確保しやすいというメリットがあります。
5.特定技能をおすすめする理由
5-1.比較的人材が見つかりやすい
特定技能の一番のメリットといえるのが人材が見つかりやすいことです。EPAや在留資格「介護」は母数も少ないことから人材を見つけづらいですが、特定技能は現在コロナによる規制も緩和されたこともあり急激に増えています。


この図のように短期間でかなり増加していることが見てわかるので今後も増えていくと予想されます。
5-2.一定の日本語力と知識がある
特定技能「介護」を取得するには技能実習からの移行か日本語試験、介護日本語試験、介護技能試験を取得する必要があるので、一定数の日本語力、介護の知識がある人材を採用できます。
特定技能で働くことのできる人の日本語レベルは、N4以上(日常会話が可能なレベル)で、日本語でコミュニケーションが難しいというリスクが技能実習に比べて少ないです。
また技能実習からの移行であれば日本の生活にも慣れているので、なじむまでが早いということも大きなメリットです。
5-3.技能実習と比べてコストが抑えられる
技能実習、特定技能両者とも5年間受け入れるという条件で比較すると特定技能の方が圧倒的に割安です。
その差は少なく見積もっても、5年間でおよそ20万~30万円!
様々なケースがあり、管理団体の費用、登録支援機関の費用、給与の差などがあり、一概に比較できませんが、相場のコストを洗い出してみました。
※地域によって変動のある住居家賃等の生活サポート費は含んでいません。
技能実習 | 特定技能 | |
監理団体への費用 | ・年会費:3万円~5万円 | ・入会金(出資金):1万円~10万円監理団体への加入はありません |
現地訪問費用 | 航空機代・宿泊代等:約35万円~40万円 | ・海外人材採用の場合:航空機代、宿泊代等約35万円~40万円 | ・国内人材採用の場合:なし
入国前講習費用 | 約1万5000円~4万円 | 入国前講習はありません |
入国渡航費用 | 約5万円~10万円 | 海外人材採用の場合:約5万円~10万円 ※基本外国人本人が負担 | 国内人材採用の場合:なし
入国後講習費用 | 約10万円 | 入国後講習はありません |
管理費用 ※入社後継続的にかかる費用 | 約2万円~4万円/月 | 登録支援機関への委託有の場合:約2万円~4万円/月 | 登録支援機関への委託無の場合:なし
技能検定料 | 約2万円/回 | 技能検定はありません |
給与 ※2022年3月25日厚生労働省:令和3年の賃金構造基本統計調査 参考 | (平均:16万4100円) | 日本人と同等の給与(平均:19万4900円) | 日本人と同等の給与
上記のように、技能実習ならではの講習や検定に対してかかるコストが多くあります。特定技能は「労働者」であり、技能実習は「研修生」ということもあり、技能実習の方が技術、知識を身に着けてもらうための費用がかかります。
6. 外国人が特定技能「介護」を取得するには?
特定技能「介護」を取得するため、働きたい外国人に必要な要件を説明します。
6-1. 試験に合格する
外国人が特定技能「介護」として就労するためには、原則として次の試験に合格し、特定技能「介護」の在留資格(ビザ)を取得する必要があります。
- 日本語能力試験N4レベル以上または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル以上
- 介護日本語評価試験
- 介護技能評価試験
しかし、特定技能での就労を希望する外国人が現在持っている在留資格(ビザ)の種類によっては、上記の試験が免除される場合もあります。
免除される在留資格については、これ以降で触れていきます。
6-2. 介護福祉士養成施設を修了している
介護福祉士養成施設で学ぶ留学生が特定技能「介護」への移行を希望する場合、日本語能力と技能を証明する3つの試験が免除されます。
学校で介護について学んできた留学生であれば、即戦力になると思われるかもしれません。しかし、当面は介護福祉士養成施設を修了した外国人が特定技能を希望する可能性は低いと見られています。
なぜなら、介護福祉士養成施設修了者に対する国家試験の義務化が2027年以降に延長されたことにより、卒業後5年間介護などの業務に従事すれば自動的に介護福祉士の国家資格を取得でき、永続的に日本で就労可能な在留資格「介護」の在留資格(ビザ)を取得できるからです。
そのため、最長5年という期限付きの特定技能を希望する介護福祉士施設修了予定者は少ないと考えられます。
6-3. EPA介護福祉士候補者として満了している
EPA介護福祉士候補者として日本で4年間就労した外国人が特定技能「介護」への移行を希望する場合も、日本語能力と技能を証明する3つの試験が免除されます。
ただし、直近で受験した介護福祉士の国家試験の結果において、以下の基準を満たしている必要があります。
- 合格基準点の5割以上の得点があること
- すべての試験科目で得点があること
EPA介護福祉士候補者の在留期間満了予定者についても、入国から4年目に受験する介護福祉士の国家試験に合格すれば在留資格「介護」に移行可能です。 そのため、主に介護福祉士の国家試験に合格できなかったEPA介護福祉士候補者が特定技能「介護」の対象となるでしょう。
6-4. 技能実習2号を終了している
技能実習を良好に修了した外国人を採用する場合、介護職種の実習修了予定者はすべての試験が免除されますが、介護職種以外の実習修了者は介護日本語試験と介護技能評価試験に合格する必要があります。
技能実習2号を良好に修了した外国人というのは、
- 技能実習期間2年10カ月以上を修了して、技能検定3級か技能実習評価試験の実技試験に合格をすること
- 「評価調書」で技能実習2号を良好に修了したと認められること
上記のいずれかに当てはまれば大丈夫です!
7. 特定技能介護の試験内容
特定技能の在留資格を取得するために必要な試験の内容をもう少し詳しく解説します。
7-1. 日本語試験
特定技能1号を取得するためには、
- 日本語能力試験N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テストA2以上
の結果のどちらかで特定技能1号として活動するにふさわしい日本語能力であると証明する必要があります。
日本語能力試験(通称:JLPT)
公益財団法人日本国際教育支援協会と独立行政法人国際交流基金が主催、日本では1番認知されている日本語の試験です。読解・聴解・文法・語彙と4技能の能力をN1〜N5という5段階で評価します。N1が一番レベルが高く、特定技能1号としてビザ申請ができるのは、N4以上です。
①実施日
年2回(7月と12月の第一日曜日)の開催が固定で決まっています。
②試験実施場所
日本・東アジア、東南アジア、南アジア、大洋州、北米、中南米、西欧、東欧、中東、北アフリカ、アフリカ
③試験内容
問題を読んで、回答はマークシート方式です。
④受験申し込み
日本語能力試験受付センターのサイトから申込が可能です。
※HP:https://www.jlpt.jp/
国際交流基金日本語基礎テスト(通称:JFT-Basic)
国際交流基金が主催している日本語能力試験です。ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)に則って、国際交流基金が開発した「JF日本語教育スタンダード」に基づいて、運営されている試験です。
A1・A2・B1・B2・C1・C2とレベルがり、C2が一番高いレベルになります。
特定技能1号としてビザ申請ができるのは、A2以上です。
①実施日
各国ごとのスケジュールで実施が決められます。
日本国外で受験する:https://ac.prometric-jp.com/testlist/ssw/schedule/Schedule_F1.html
日本国内で受験する方:https://ac.prometric-jp.com/common_contents/test-dates.html
②試験実施場所
日本・ベトナム・モンゴル・インドネシア・カンボジア・フィリピン・ネパール・タイ・ミャンマー
③試験内容
CBT方式(パソコンでテスト)を採用しています。
④受験申し込み
国際交流基金のウェブサイトから申し込みが可能です。
※HP:https://www.jpf.go.jp/jft-basic/
7-2. 技能試験
それぞれの分野ごとに定められた特定技能1号評価試験に合格することが求められます。
特定技能1号評価試験は受け入れ分野で即戦力として働くために必要な知識や経験があるかを判断する試験になります。試験内容は、各分野の専門的知識がないと答えられない問題ばかりになっているので、事前に勉強をしないと当然不合格になります。
試験は、国内でも海外(一部)でも受験することができます。
<国内>https://ac.prometric-jp.com/testlist/nc/nursingcare_japan.html
<海外>https://ac.prometric-jp.com/testlist/nc/index.html
8. 採用する際の注意点
最後に、特定技能「介護」で外国人を採用する際の注意点を解説します。
8-1. 給与水準
給与・労働条件ともに、同ポジションで雇用をしている日本人従業員等と同等以上の条件である必要があります。
また、外国人であることを理由として、報酬の決定などの待遇についても、差別的な取扱いをしてはいけないことも定められています。
8-2. 受け入れ人数の上限
特定技能外国人の雇用に関しては、基本的に企業毎の受け入れ人数制限はありませんが、介護業においては制限があります!事業所単位で日本人等の常勤介護職員の総数が上限です。
また、日本人「等」というのは、具体的に下記の3つの在留資格で滞在する外国人が含まれています。
- 介護福祉国家試験に合格したEPA介護福祉士
- 在留資格「介護」により在留する外国人
- 永住者や日本人の配偶者など、身分・地位に基づく在留資格により在留する外国人
※技能実習生・EPA介護福祉士候補者・留学生は含まれないので、注意ください。
8-3. 文化・宗教の理解
日本に来る外国人はもちろん、彼らの国の文化や習慣、宗教観を持っています。
例えばイスラム教の人は豚肉を食べることができませんし、1日の中で数回礼拝をする人もいます。文化・宗教への不理解・不寛容はトラブルの原因となります。日本人も外国人の国の文化を調べ、日本とその国の文化の違いについて、外国人職員と話し合うことをおすすめします。
まとめ
要介護者が増加する一方、国内で介護職を希望する人材が減っている日本において、外国人介護職員は今後欠かせない存在となります。まだ外国人介護職員を採用したことがない施設であっても、今後外国人介護職員を採用する必要がある可能性は高いです。
一方で、ビザの種類が複数あり、手続きが煩雑な外国人採用に踏み切れない施設も多いかと思います。そのため、外国人介護職員を採用する際は、知識や経験豊富な外国人雇用のプロに相談することをおすすめします。
当スクールでは特定技能外国人の採用に関するご相談を承っていますので、外国人介護職員を採用したい方や具体的な採用方法について知りたい方はお気軽にご相談ください。