外国人雇用には宗教的配慮が必要?主なトラブルと事例もご紹介!

執筆者:Divership編集部|外国人雇用担当部門

日本では、外国人労働者の受入れが増えています。外国人労働者と円滑にコミュニケーションをとるためには、宗教に関する知識や配慮が必要です。しかし、日本人は宗教に対してあまり敏感ではないため、トラブルを招くこともあるでしょう。

そこでこの記事では、日本に多い外国人労働者の宗教の特徴をご紹介します。それぞれの宗教の信者が多い国や地域、戒律や習慣などを簡単にまとめました。外国人労働者に対する宗教的配慮の事例もいくつか紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

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目次

1.日本に多い外国人労働者の宗教の特徴とは?

日本に多い外国人労働者の宗教は「イスラム教」「ヒンドゥー教」「キリスト教」「仏教」「ユダヤ教」などです。ただし国や地域によって、どちらの信者が多いかは異なります。またそれぞれの宗教には、戒律や習慣の違いもあると覚えておきましょう。

1-1.イスラム教

イスラム教

イスラム教は、世界で信者数が多い宗教の一つです。イスラム教の信者はムスリムと呼ばれ、唯一の神アッラーを信じています。イスラム教は厳格な戒律があり、礼拝のしかたや食事のとり方にも気を配る宗教です

信者が多い国

イスラム教の信者が多い国は、中東やアジア、アフリカなどにあります。特にインドネシアは世界で最もムスリムの人口が多く、約2億人(国民の87%)が信仰しているといわれてます。他にもパキスタン、バングラデシュ、インドなどがイスラム教大国です。

戒律・習慣

イスラム教は、1日に5回聖地メッカの方向に向かって礼拝をするのが習慣です。礼拝の時間は決まっており、その都度アザーンという呼びかけがあります。また礼拝をする際には清潔な場所を選び、服装や振る舞いに気を付けます。

断食月(ラマダン)と呼ばれる期間中は、日中は水も食事も摂りません。その期間は毎年変わりますが、2023年の場合には3月22日~4月20日頃です。ただし国や地域によって、期間が異なると覚えておきましょう。

イスラム教では、禁止されている食べ物があります。豚肉や酒はもちろんですが、ソーセージやハム、ブイヨン、ラードといった加工食品も避けなければなりません。そのためイスラム法に則った「ハラールフード」を食べるのが基本です。

イスラム教では頭を神聖なものと考えるため、頭を触ったり撫でたりするのは好まれません。また女性は、むやみに肌や髪を見せてはいけないという考え方もあります。そのためヒジャブ(頭に巻く布)やブルカ(全身を覆うベール)などを身につける女性が多いのです。

1-2.ヒンドゥー教

ヒンドゥー教

日本にも技能実習生や留学生などでヒンドゥー教徒が増えています。ヒンドゥー教には、厳しい戒律や習慣があります。

インドで廃止されたカースト(身分制度)ですが、現在でも根深く残っています。身分によって職業が異なり、結婚や食事にも厳格な規制があるので、多くの場面で自由に選択できません。こうしたカースト制度の風習を重んじる外国人労働者を受け入れる場合、文化への理解が必要になるでしょう。

信者が多い国

ヒンドゥー教の信者は世界で約11億人います。そのうち、約8割がインドに住んでいます。インドやネパールでは、国民の約80%がヒンドゥー教徒です。他にもバングラデシュやスリランカの一部で、ヒンドゥー教が信仰されています。

戒律・習慣

ヒンドゥー教では、牛を神聖な動物として崇拝しています。そのため、牛肉を食べることはできません。また厳格なヒンドゥー教徒は、肉類全般や魚介類、卵などを避けるケースがあります。食事を提供する際には、原材料や調理法を確認してください。

ヒンドゥー教では、左手は不浄なものとされています。食事や物の受け渡しをするときには、右手で行うのがマナーです。また「神」が宿るとされるため、人の頭を触ったり撫でたりするのも失礼にあたります。

1-3.キリスト教

キリスト教

キリスト教は、イエス・キリストを救世主として信じる宗教です。キリスト教は世界で最も広まっている宗教で、約22億人が信仰しています。キリスト教にはカトリック、プロテスタント、正教会などのさまざまな宗派があります。

信者が多い国

キリスト教の信者が多い国は、ヨーロッパやアメリカ大陸です。特にアメリカやブラジルは、世界でキリスト教徒の人口が多いといわれています。他にもメキシコ、フィリピンなどがキリスト教の大国です。

戒律・習慣

キリスト教では、日曜日を安息日として神に感謝することが重視されます。日曜日には教会に行って礼拝を行ったり、牧師や神父から説教を聞いたりします。また、クリスマス(降誕祭)やイースター(復活祭)などの祝日も神の恵みを祝う機会となります。

キリスト教では、食事に関する禁止事項は特にありません。しかし宗派によっては例外も存在します。例えばローマ・カトリック教会では、「灰の水曜日」「聖金曜日」と呼ばれる2日間に食事の量を控えるのが特徴的です。

キリスト教では十字架や聖書などを神聖なものと考えるため、それらを侮辱したり汚したりすることは失礼とされます。

※参考:キリスト教|国土交通省

1-4.仏教

仏教

仏教は、釈迦(しゃか)と呼ばれる人物が説いた教えに基づく宗教です。仏教では、苦しみの原因は執着(しゅうちゃく)や無知(むち)にあると考え、悟り(さとり)を開いて解脱(げだつ)することを目指します。

仏教には大乗と小乗のほかに、チベット仏教や禅宗などのさまざまな宗派があります。また日本では大乗仏教のなかでも、浄土真宗や日蓮宗など特定の宗派について耳にする機会もあるでしょう。仏教には多様性があり、国や地域、宗派によって信仰のしかたが異なります。

信者が多い国 

仏教国の割合は、タイ95%、カンボジア95%、ミャンマー89%、スリランカ70%、ラオス60%、シンガポール43%というデータがあります。9割以上はアジアに分布しており、日本でも46.3%が仏教に宗教的帰属をしているのが現状です。

※参考:厚生労働科学研究成果データベース
    信仰の自由に関する国際報告書(2022年版)-日本に関する部分|在日米国大使館と領事館

戒律・習慣

仏教では、五戒(ごかい)と呼ばれる基本的な戒律があります。簡単にいうと殺生しない、盗まない、不倫をしない、嘘をつかない、酒を飲まないというものです。八正道(はっしょうどう)と呼ばれる八つの正しい行いを実践することで、苦しみから解放されるとされます。

仏教では、食材に関する禁止事項があります。肉や魚はもちろんですが、にんにくや玉ねぎなどの香りの強い野菜(五葷・ごくん)も避けるのが基本です。また先祖供養を重んじており、お盆やお彼岸といった節目にはご先祖様を自宅へお迎えして供養します。

1-5.ユダヤ教

ユダヤ教

ユダヤ教は「ヤハウェ」を唯一神とし、モーセに与えられた十戒を中心とする教えに基づく宗教です。ユダヤ教の信者はユダヤ人と呼ばれ、戒律を重んじる「超正統派」や穏やかに信仰する「正統派」、他にも「保守派」「改革派」などに分かれています。ユダヤ教は世界で最も古い宗教の一つで、キリスト教やイスラム教にも影響を与えました。

信者が多い国 

ユダヤ教の信者は世界で約1,500万人です。そのうち約680万人がイスラエル、米国に約600万人住んでいます。イスラエルは1948年に建国されたユダヤ人の国家で、国民の約73%がユダヤ人です。他にもフランスに約44万人、カナダに約39万人、英国に約29万人のユダヤ人が住んでいます。日本には少数のユダヤ人が住んでおり、東京や神戸などにシナゴーグ(礼拝所)があります。

戒律・習慣

ユダヤ教で信じられているのは、モーセの律法トーラーやタルムードと呼ばれる聖典に基づいた教えです。例えば、食事ではカシュルートと呼ばれる食べ物の分類や調理法に従うことが求められます。カシュルート(食物の厳格な規定)では肉と乳製品を同時に食べたり、豚肉や甲殻類などの不浄な動物を避けるのが基本です

安息日(サバト)と呼ばれる期間中は仕事や旅行などを控えることが推奨されます。安息日は、毎週金曜日の日没から土曜日の日没までです。さらにペサハ(過越祭)、ローシュ・ハッシャーナー(新年)、イォム・キプール(贖罪の日)などの祝日も重要です。これらの祝日では、特別な儀式や祈り、断食をします。

※参考:ユダヤ教|国土交通省

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2.外国人労働者の受け入れで起こりやすい宗教問題

宗教は、人の価値観や生活スタイルに大きな影響を与えます。そのため宗教に関する知識や配慮が不足していると、トラブルになったり不満が生じたりするかもしれません。ここでは外国人労働者の受け入れで起こりやすい宗教問題についてまとめました。

2-1.食事のトラブル

食事は、宗教によって禁止されている食べ物や調理方法があるため、トラブルになりやすいでしょう。例えばイスラム教では、豚肉や酒を食べたり飲んだりすることはできません。またヒンドゥー教では、牛肉を食べることは禁忌とされています。アルコールを好まない宗教もあり、みりんや料理酒といった調味料への配慮も必要です。

食事の規則を無視したり侮辱したりすることは、外国人労働者にとって非常に不快なことでしょう。そのため社内食堂の環境や、ランチメニューには気を付けなければなりません。

食事に関しては以下の対応を検討してみましょう。

  • 口にしてよい食べ物・よくない食べ物を確認しておく
  • ランチメニューの原材料を表示する

断食月(ラマダン)は日中の飲食ができない

イスラム教では、1年のうち約1か月間、日の出から日没まで水も食事も摂らない断食月(ラマダン)があります。断食するのは、神への感謝や自己浄化が目的です。

断食月中は、体力や集中力が低下する可能性もあるでしょう。また仕事中に水分補給ができないため、熱中症や脱水症状になるリスクも高まります。

断食月中の外国人労働者に対しては、以下のような配慮が必要です。

  • 業務内容や時間帯を調整する
  • 休憩時間増やす
  • 休憩場所を用意する
  • 他の従業員は目の前での飲食を控えるか、目立たないようにする
  • 夜間の食事に配慮する

2-2.環境のトラブル

礼拝環境がない

礼拝は、信仰心の強い人にとって非常に大切なものです。しかし多くの場合、日本の職場では礼拝ができる環境が整っていないでしょう。そのため「礼拝に必要な時間や場所が確保できない」「礼拝することで業務に支障をきたす」といった問題が浮上するかもしれません。

礼拝環境の問題を解決するためには、以下のような対策が必要です。

  • 礼拝の時間帯、回数などについて話し合う
  •  礼拝できるスペースを社内に確保する
  • 男女別に礼拝をする宗教の場合、部屋を分ける
  •  礼拝用の手洗い場を用意する
  •  礼拝中は他の人から邪魔されないように注意喚起する

2-3.服装のトラブル

職場でのヒジャブの着用禁止

イスラム教徒の女性は、肌や髪を隠すために、頭や首を覆う布で覆います。ヒジャブ(頭に巻く布)やブルカ(全身を覆うベール)と呼ばれ、謙虚さや信心深さを表す布です。

しかし日本では、「企業や職種のイメージに合わない」「顧客や同僚から不評や苦情が出る」といった理由から、ヒジャブの着用を禁止している会社もあるでしょう。しかし外国人労働者にとって、納得できない理由かもしれません。

ヒジャブは宗教的な義務だけでなく、個人的な選択やアイデンティティでもあるからです。そのため、ヒジャブを着用することを禁止することは、信仰の自由や人権を侵害することになりかねません。

職場でのヒジャブの着用に対しては、以下のような対策が必要です。

  • 服装については信仰上の都合に配慮する
  •  衛生面や安全面で問題がある場合は、ヒジャブの色や形などを調整する
     例)食品工場では白いヒジャブを着用する
       機械や火気などの危険な場所では、ヒジャブが引っかかったり燃えたりしないように注意する
  •  顧客や同僚から不評や苦情が出る場合は、ヒジャブの意味や背景を説明する
  • ヒジャブを着用する外国人労働者に対しても、日本の文化や習慣を説明する

2-4.病気やけがの治療に関するトラブル

外国人労働者が病気やけがをした場合にも、宗教の違いによるトラブルに注意します。例えば宗教上の理由で「輸血を拒否する」「同性の医師や看護師を希望する」といった状況が考えられます。

もしイスラム教の信者なら、豚を口にすることは禁止されているため、豚由来のワクチンや薬を拒否するかもしれません。またイスラム教やユダヤ教では、男女の接触を避けることが求められるため、同性の医師や看護師を希望する可能性もあります。

これらの問題を解決するためには、以下のような対策が必要です。

  • 宗教上の理由で治療や輸血を拒否する場合は、その理由を尊重し、代替的な治療法がないか相談する
  •  宗教上の理由で特定の医師や看護師を希望する場合は、その理由を理解し、可能な限り対応する

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3.外国人採用における宗教的配慮の事例をチェック!

外国人採用を進めるうえで「どのように宗教的配慮をすればよいのだろう」と、悩むかもしれません。信仰する宗教の種類や本人の信仰心の強さによって、必要な対応は異なります。ここでは外国人採用における宗教的配慮の事例をまとめました。企業の採用担当者は、ぜひ参考にしてみてください。

3-1.社員食堂でのハラール食の提供・原材料表記

事務所で提供されているハラール食の例

画像引用:宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査ームスリムを中心としてーの結果|総務省

「食事」のへ配慮として、以下の事例が挙げられます。

【事例1】
具体的な対応:社員食堂でハラール食を提供、多国籍レストランを開設
結果:効果的な人材育成に成功

【事例2】
具体的な対応:豚肉・牛肉の使用状況を英語とイラストで表示
結果:ムスリムの技能実習生に好評を得た

3-2.礼拝室・ウドゥ用設備の設置

礼拝室とウドゥ用のシャワー室

画像引用:宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査ームスリムを中心としてーの結果|総務省

「礼拝」のへ配慮として、以下の事例が挙げられます。

【事例1】
具体的な対応:休憩室を礼拝室、浴室をシャワー室に改装
結果:ムスリムの宗教的戒律を理解する機会となった  

【事例2】
具体的な対応:未使用の部屋を礼拝場所として開放、ウドゥ用設備を導入
結果:礼拝環境の配慮により、仕事に対する姿勢が勤勉になった

※ウドゥ(小浄)とは
礼拝前に、手や顔、腕など体の一部を水で清める行為

参考:宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査ームスリムを中心としてーの結果|総務省

3-3.断食月・集団礼拝におけるシフトの配慮と周知

「断食月」「集団礼拝」への配慮として、以下の事例が挙げられます。

【断食月】
具体的な対応:朝礼前に体調不良がないか確認
       希望者を夜勤に変更(昼食がとれず集中力に欠けるため)  

【集団礼拝】
具体的な対応:就業時間中でも、近隣の集会礼拝所に行くことを認める  

【周知】
具体的な対応:ムスリムへの理解を深めるため、冊子を作成し配布
結果:「知見が広がった」という声があった

4.宗教的配慮の実施状況(事業所及び大学)

企業の採用担当者は、どのくらいの事業所が、宗教的配慮に取り組んでいるのか気になるかもしれません。なぜなら各事業所の実施状況に応じて、自社への導入を検討したいのではないでしょうか。そこで中部管区行政評価局による、調査結果を紹介します。

食事に配慮した取り組みの実施状況(調査対象事業所及び大学)

調査対象はイスラム圏に事業展開し、国内でもムスリムの従業員や研修生を受け入れていると想定される20事業所および15大学です。主な調査内容は「ムスリムの方を対象とした食事への配慮」で、その内訳は下記の表①~④に記載しています。

宗教的配慮を要する外国人の受け入れ環境整備等に関する調査

※内訳欄記載の取り組みは、ひとつの事業所又は大学で複数の取り組みを実施している場合がある
( )は、調査対象事業所及び大学数。割合は、調査対象事業所及び大学に対する構成比

※引用:宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査 ―ムスリムを中心として―|中部管区行政評価局

上記の表④に該当する取り組みで実施されている具体的な事項

宗教的配慮を要する外国人の受け入れ環境整備等に関する調査

※引用:宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査 ―ムスリムを中心として―|中部管区行政評価局

事業所では上記のとおり、懇親会や各種行事を開催するとき「豚肉を除いた物も提供する」といった配慮がみられます。他事業所の取り組みを参考にして、自社でも対応可能か検討してみるとよいでしょう。

5.まとめ

信仰心の強い外国人労働者にとって、宗教的配慮はとても重要なものです。仕事へのモチベーションアップや愛社精神を育てることにつながり、人材の定着を図りやすくなる可能性もあるでしょう。

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