難民を受け入れるメリットをご紹介|共生に向けて私たちができる難民支援の方法

執筆者:Divership編集部|外国人雇用担当部門

外国人雇用を検討している企業の方で難民ビザという言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。もしくは、難民ビザを持つ外国人の方から企業の求人に応募が来たことがある方もいるかもしれません。

難民ビザを持つ外国人の雇用は可能ですが、その人数はかなり限られているのが現状です。

しかし企業による難民の雇用は、外国人が増えている現在の日本での共生社会をより一層推進していくことに寄与するでしょう。

この記事では難民の雇用を通じて、企業が共生社会に向けてできることを解説します。

国籍ごとの特徴や心構え外国人採用のコツについての
情報を詰め込んだ内容になっています。ぜひご活用ください!

目次

1. 日本の難民受け入れの現状

日本は諸外国に比べ、難民認定率が低いことをご存じの方は多いでしょう。ここでは日本の難民政策の基本事項を説明します。

1-1.「難民」とは

「難民」とは難民条約(1951年の難民の地位に関する条約)に定義された難民の要件に該当すると判断された人のことです。

難民の要件は以下の3つです。

Ⅰ.人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受け   
  るおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
Ⅱ.国籍国の外にいる者であること
Ⅲ.その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受け
  ることを望まない者であること

つまり、難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々ということです。

難民の出身国は内戦が続くシリアを始め、パレスチナ・ベネゼエラ・アフガニスタン・南スーダン・ミャンマーなどがあります。

日本は1970年代後半の東南アジアで起きたインドシナ戦争による難民(インドシナ難民)を受け入れるために、1981年に難民条約に加入しました。

日本に難民として来た外国人は難民申請をし、法務大臣から難民の地位に該当するか認定を受ける必要があります。この手続を難民認定手続きと言います。

難民認定を受けた外国人は以下のような利益を得ることができます。

  1. 安定した在留資格の付与
    難民の認定を受けた外国人には、原則として在留資格「定住者」が付与されます。
  2. 永住許可要件の一部緩和
    在留資格を有する外国人が永住許可を受けるためには、
    (1)  素行が善良であること
    (2)  独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
    の2つの要件を満たし、かつその者の永住が日本国の利益に合すると認められなければならないとされています。 しかし、難民の認定を受けて在留する外国人は、このうち(2)の要件を満たさない場合であっても、法務大臣の裁量により永住許可を受けることができます。
  3. 難民旅行証明書の交付
    難民の認定を受けた外国人が外国に旅行しようとするときは、難民旅行証明書の交付を受けることができます。難民旅行証明書を所持する外国人は、その証明書に記載されている有効期間内であれば、原則として何度でも日本から出国し、日本に再入国することができます

ここに記載のある通り、正式に難民認定が許可された外国人は「定住者」という在留資格になります。では、よく会話で聞く「難民ビザ」とは何なのでしょうか。

「難民ビザ」とは、一般的には出入国在留管理庁に難民認定を行い、その結果を待っている状況を指します。難民に認定されているわけではないため、注意が必要です。

また、「ビザ」とは「持っているパスポートが本物であり日本に上陸することが問題ないということを示すもの」、つまり日本上陸時までしかその効力はありません。上陸後は日本に中長期在留するために「在留資格」が必要になります。

「難民ビザ」を持っていると一般的に言われる状況は、正確には在留資格「特定活動」を得て、日本に在留していることです。

難民申請中の外国人に与えられる在留資格「特定活動」の在留期間は、2か月・3か月・6か月に分けられます。この中で特定活動(6月)のみ就労が可能です。

詳しくは「4.受け入れる方法」で解説しています。

1-2.難民受け入れの現状

外務省によると、1982年の難民認定制度導入から2021年までの難民申請数と認定率はこのようになっています。

  • 申請数…91,664人
  • 認定数…1,117人
  • 認定率…約1.2%

難民とは認定しなかったものの、人道上の理由を配慮に在留を認めたものも5,049人います。

これは例えば「本国が内戦状態にあり危険であることから、紛争退避機会として難民申請をした場合」や、「反政府武装勢力である人物の親族と喧嘩したことが原因で襲撃を受けたことがあり、帰国した場合に当該反政府武装勢力に迫害を受ける恐れがあるとして、難民申請を行った場合」などです。

令和5年の難民認定申請を行った外国人は13,823人であり、前年に比べて1万人以上も増加しました。主な国籍はスリランカ・トルコ・パキスタンなどです。新型コロナウイルスによる入国制限が緩和されて以降、世界的に難民申請が増加しています。

また、「第三国定住」により、アジア地域(主にミャンマー)から難民を受け入れています。

◇第三国定住とは

難民キャンプ等で一時的な庇護を受けた難民を、当初庇護を求めた国から、新たに受入れに合意した第三国に移動させ、長期的な滞在権利を与えること

2010年から2014年までは、タイに滞在するミャンマー難民を、2017年から2019年まではマレーシアに滞在するミャンマー難民を対象に、年に1回受け入れてきました。2020年以降はアジア地域を対象にし、難民を受け入れています。

ミャンマーは2021年に軍事クーデターが発生し、3年以上が経過した今でもデモが全土で続いています。

📍ミャンマーの現状について知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

[出典:外務省「国内における難民の受け入れ」]
[出典:出入国在留管理庁「難民認定制度」]
[出典:JICA「つながる世界と日本 難民問題、ポイント解説!」]

2. 受け入れのメリット

難民を受け入れる国は、自国の経済や社会と難民を統合しなければなりません。企業が難民の雇用を受け入れることで、日本社会と難民の統合に繋がるだけでなく、企業側にもメリットがあります。

  1. ダイバーシティの促進
  2. 労働力の確保
  3. 新たな視点の獲得

それぞれ詳しく解説します。

2-1.ダイバーシティの促進

ダイバーシティとは「多様性」、つまり、組織や社会において性別・民族・文化・ライフスタイルなどの違いを積極的に肯定・尊重し、人材として受け入れることです。

特に人種・民族・文化の違いを受け入れるという点で、企業がダイバーシティ実現に繋げるために外国人採用に取り組む事例は増えています。

難民は日本人と人種や民族が違うだけでなく、今までの人生で置かれた環境が全く違う場合が多いです。紛争地域に生まれ今まで安全な社会で生活したことがない人もいますし、それまでは平和な暮らしをしていたのに、突然のクーデターや内戦で祖国を追われた人もいます。同じ「難民」といってもその状況は人によって様々です。

「難民だから」と一括りにせずに、同じ会社で働く一人の同僚としてその人の人生を理解することが、企業のダイバーシティへの第一歩となるでしょう。

2-2.労働力の確保

「2040年問題」をご存じでしょうか。

この問題は人口減少と高齢化を背景に、2040年に様々な社会問題や経済問題が顕在化することです。具体的には、2040年代に1971年から1974年生まれの団塊ジュニア世代が65歳を超え、65歳の高齢者が全人口の35%以上になると予想されています。同時に少子化も進み、生産年齢人口が急激に減少していきます。

2040年に以下のような問題が表面化すると予想されています。

  • 労働力不足により経済が縮小する
  • 医療・介護などの社会インフラの維持が困難になる
  • 地方の過疎化
  • 世代間格差の拡大

特に在留資格「特定技能」で外国人を雇用できる「特定産業分野」は、人手不足が他業種に比べて深刻です。

難民認定を受けた外国人、また難民認定申請中ではあるけれども就労が認められている外国人は、他の在留資格を持つ外国人に比べて決して数は多くありません。しかし、1人でも貴重な労働力となりますので、応募があった場合は採用を検討してみたはいかがでしょうか。

特に難民認定を受けた、つまり在留資格「定住者」を持っている外国人は正社員雇用も可能で、従事する仕事内容に制限がありません。

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2-3.新たな視点の獲得

「2-1.ダイバーシティの促進」でも述べたように、難民として日本に来ている外国人は、他の就労目的で来日する外国人とは、その背景が全く異なる場合があります。

日本人と関わるだけでは知り得ない世界の実情を、難民を通して知ることができるかもしれません。これは従業員の意識改革や、企業のあり方にも影響を与えるでしょう。

3.懸念点

難民を雇用する際は、文化・習慣の違いに注意するだけでなく、不法就労や不法滞在などの法的側面にも注意が必要です。

ここでは大きく3つの懸念点・リスクについて説明します。

  • 不法就労助長罪に問われる可能性
  • 文化・習慣の違い
  • 言語の壁

3-1.不法就労助長罪に問われる可能性

「不法就労助長罪」とは、日本で働く資格がない人を働かせてしまった事業主や、働く資格がない人に仕事を斡旋したものが問われる罪です。3年以下の懲役、または300万円以下の罰金が科されます。

すでに難民認定を受けている、在留資格「定住者」の方を雇用する場合は、問題になることは少ないです。「定住者」は仕事の内容に制限がなく、日本人と同じように正社員として雇用することができます。給与などの雇用条件は、同ポジションの日本人従業員と同等以上にする必要があります。

まだ難民認定を受けていない、つまり難民認定申請中で「特定活動」という在留資格を持つ外国人には注意が必要です原則、難民認定申請中の外国人に就労は認められていません。しかし「特定活動(6月)」や、「特定活動(3月)」を持つ外国人の中には、就労が認められている人もいます。これは在留カードだけでは確認できず、パスポートに貼り付けてある指定書を見る必要があります。

外国人は「私は働くことができる在留資格を持っている」と口頭ではいいますが、必ずしもそれが本当かはわかりません。必ず在留カードと指定書を確認するようにしてください。

また、在留カードの期限が切れている場合は不法滞在となります。不法滞在者を雇用することも不法就労助長罪に当たります。

3-2.文化・習慣の違い

日本に就労目的で来る外国人は東アジアや東南アジアの人が多く、定住者や永住者はブラジル人が多いです。しかし、難民として日本に来る外国人の国籍はそれらの国に限りません。令和5年度の難民認定申請者の主な国籍は、スリランカ・トルコ・パキスタン・インド・カンボジアでした。

普段、留学生や特定技能外国人など、多くの外国人従業員と接する機会がある事業主の方でも、国が変われば文化・習慣も変わるため、注意点も変わってきます。

外国人従業員だと一括りにしないで、それぞれの出身国や個別の事情を鑑みて接することが求められます。

3-3.言語の壁

難民として認定された人々や難民認定申請中の人にとって、日本で生活する上で大きな壁となるのが日本語の問題です。

来日前に母国で日本語教育を受けている就労目的の外国人と違い、難民は日本語を学んでから日本に来るわけではありません。日本語がわからないことで受けられる支援の情報を得ることができないという事例もあります。

難民認定された外国人は文化庁が行う日本語教育プログラムを受講できますが、難民認定申請中の外国人はそのような支援がないため、自分で日本語を学ばなければなりません。

企業で日本語講座を開くか、それが難しい場合は地域の日本語教室を紹介するといいでしょう。

地域の日本語教室は日本語という言語を学べるだけでなく、同じ地域に住む外国人同士のコミュニティに参加することや、外国人支援の情報を得ることができます。

[出典:厚生労働省「外国人雇用状況届による特定産業分野の把握について」]

4.受け入れる方法

続いては、難民認定申請中の外国人を雇用できるのか、について説明します。

結論から申し上げますと、雇用は可能です。ただし全員ではなく、特定活動・6月(就労可)という在留資格を持っている方のみ可能です。

4-1.難民ビザで雇用可能

難民ビザはつまり、「難民認定申請中で、特定活動の在留資格で日本に滞在する外国人」ということです。

難民認定申請中の外国人が持つ在留資格「特定活動」は、在留期間によって分けられますまずはその振り分けについて説明します。

外国人が来日して難民認定申請をすると、多くの場合「特定活動(2月)」という在留資格がもらえます。その間に難民認定申請の内容が確認され、2か月後に難民は申請内容に応じてA、B、C、Dの4つのグループに分けられます。

【外国人が来日してから、振り分け期間が終わるまでの流れ】

Step.1 外国人が来日する
Step.2 難民認定申請をする→在留資格「特定活動(2月)」を得られる(就労不可)
Step.3 申請から2か月後、A~Dに振り分けられる

A,B,C,Dの4つのグループのうち、就労可能な「特定活動(6月)」となるのは主にAグループのみですそしてAグループに振り分けられる外国人の数はあまり多くないため、「特定活動(6月)」を持つ外国人も自ずと少なくなります。

分類案件の内容振り分け後の対応
A難民条約上の難民である可能性が高いと思われる案件、又は、本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる案件判明後、速やかに「特定活動(6月・就労可)」を付与
B難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件在留制限
C再申請である場合に、正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件 
DD1本来の在留活動を行わなくなった後に難民申請をした人、又は出国準備中に難民申請をした人就労制限「特定技能(3月・就労不可)」
D2D1以外の案件 ※人道配慮の必要性を検討する場合はD案件とする申請から6か月以内の場合 ⇒「特定技能(3月・就労不可)」を2回許可する   申請から6か月経過の場合 ⇒「特定活動(6月・就労可)を付与」

B、Cに振り分けられた場合は、新しい在留資格を得ることができないため、外国人は帰国しなければならなくなります。

人道配慮が求められる場合はDに振り分けられ、申請から6か月以上が経過していれば就労可能になります。

パスポートや在留カードだけでは外国人がAからDのどのグループに振り分けられているのかがわかりません。もし難民ビザを持つ外国人から応募が来たら、難民認定申請書類を確認して、どのグループに振り分けられているのか確認する必要があります。

[出典:法務省「就労制限の対象となる難民認定申請者について」]

5.共生社会に向けて我々ができること

最後に、難民を雇用することを通じて、共生社会の実現に向けて我々ができることを紹介します。

5-1.難民問題に対する理解を深める

異文化理解を目的とした異文化コミュニケーション研修などを取り入れている企業は多いかと思いますが、難民問題をはじめとした世界各地で発生している問題に対する従業員の理解はどのくらいでしょうか。

日本では難民認定申請の許可率が低く、馴染みがない問題だと感じてしまう方もいるかもしれません。ただ、世界には自然災害や政治的な紛争、人種差別などで、国際的な支援がなければ安全な生活を送ることができない人がいるということを受け止めることは非常に大切です。そして、日本も決して難民問題に無関係ではなく、多くの難民が支援を求めて日本に来ていることも知っておかなければなりません。

その上で日本の難民認定制度のあり方や、各自治体の共生社会実現のための施策を従業員それぞれが自ら調べられるといいでしょう。

5-2.働きやすい環境作り

難民として日本に来た外国人は、就労目的で日本に来た外国人以上に、日本語や日本の文化・習慣を知りません。特に日本人の働き方を知っている人は少ないでしょう。

そのため事前研修などで、日本で働くときに気を付けるべきこと(遅刻に厳しい、報連相を徹底するなど)を確実に伝えるといいでしょう。

さらに日本の生活のサポートや、役所・医療機関の使い方なども聞かれたときに答えられると、外国人の方も安心して働けるでしょう。

5-3.法的支援

難民認定申請中の外国人は、申請の結果が出るまではずっと不安を抱えて生活しています。もし申請が不許可になった場合、危険の待つ母国に帰らなければならないからです。

そんな状況で、申請手続きの情報を提供したり、難民認定申請書類作成の支援をしてくれる存在が身近にいれば、心理的な不安を少し緩和しながら生活ができます

弊社JJSでは、在留資格変更許可申請など多くの在留資格に関連する書類を作成したことがあるスタッフがいます。もし難民認定申請をした外国人の雇用を考えている際には、ぜひ一度弊社にご相談ください。

6.まとめ

「難民ビザ」の方の中で就労可能な方は非常に少ないです。しかし、その数少ない難民ビザの方を雇用する機会があれば、それは外国人にだけではなく、国際理解を推進したい企業にとってもメリットがあるでしょう。

共生社会に向けて、一企業ができることを従業員が考えるきっかけとなります。

弊社JJSでは主に特定技能外国人材の紹介を行っておりますが、外国人採用全般のご相談もお受けしておりますので、もしご質問などございましたらお気軽にお問い合わせください。

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