難民ビザは雇用できる?更新可否・就労時間・就労ビザへの変更など解説
執筆者:竹村(JapanJobSchool講師兼就職支援室マネージャー)
外国人雇用を検討されていると「難民ビザ」という言葉をお聞きになった方も多いのではないでしょうか?
また、事業主の方でこの「難民ビザ」の方を雇用できるかどうか、気になっていらっしゃる方も多いと思います。
結論から申し上げますと雇用は可能ですが、2018年の法改正後、急激に数が少なくなっており、雇用する際もいくつか注意点がございます。
そこで、今回は「難民ビザ」の概要や雇用の可能性、また雇用時のリスク・注意点などをご理解いただけるよう、説明していきます。
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1. 難民ビザとは?
この章では、ビザと在留資格の違い、「難民ビザ」という言葉の定義などを説明して参ります。
1-1.難民ビザは存在せず、「特定活動」という区分になる
よく会話の中で「難民ビザ」「就労ビザ」「配偶者ビザ」という単語を使ってしまいますが、厳密には「ビザ」という言葉は「査証」と呼ばれ、持っているパスポートが本物であり、日本に上陸することが問題ないということを示すものです。
それでは、「難民ビザ」とはどのような状況かと言いますと、一般的には出入国在留管理庁に難民認定申請を行い、その結果を待っている状況を指します。難民として認定されている、ということではありません。
正式に難民認定が許可された方は「定住者」(法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者)という在留資格になります。
以下、本文では便宜上「難民ビザ」という言葉は難民認定申請の結果を待っている方とします。尚、この場合、在留資格としては、「特定活動」という区分になります。
外国籍の方が日本に在留し、その資格に沿った活動をすることを「在留資格」と言います。この在留資格は特定技能、技術・人文知識・国際業務、経営、教授など多岐に渡ります。在留カードの表面に記載されているのでご覧になった方も多いと存じます。
ビザと在留資格という言葉は混同されやすいので注意が必要です。
参考:制度の概要 | 在留資格 特定技能 | 外務省
在留資格一覧表 | 出入国在留管理庁
1-2.難民ビザは申請中を指す
上記しましたように、「難民ビザ」とはどのような状況かと言いますと、一般的には出入国在留管理庁に難民認定申請を行い、その結果を待っている状況を指します。
難民認定申請とは、「難民である外国人は、難民認定申請を行い、法務大臣から難民であるとの認定を受けることができ、また、難民条約に規定する難民としての保護を受けることができる」と出入国在留管理庁のHP上に記載があります。人種や宗教、国籍、政治などの問題で迫害を受ける可能性があるため、自国の国外にいる方たちが対象となり、出入国在留管理庁がその審査を行います。
これは、1982年に難民条約に関する議定書が日本で発行されたことによりスタートし、2021年においても74人の方が日本で難民と認定され、難民とは認定されなかったものの人道的配慮により在留が認められた方も580人いらっしゃいます。
難民認定が許可された方の在留資格は「定住者」となり、下記のような権利や利益が付与されます。
①永住許可要件の一部緩和:独立生計が可能な資産や技能が無くても許可される可能性がある |
②難民旅行証明書の交付:有効期間内であれば何度でも日本から出国し、日本に入国することが可能 |
③難民条約に定める各種の権利:国民年金、児童扶養手当、福祉手当などの受給資格を得ることが可能 |
「定住者」の中に「第三国定住難民」という区分に含まれる方たちがいらっしゃいますが、「第三国定住難民」とは、難民の方が最初に保護を求めた国から、受け入れてもらう第三の国へ定住する方のことを指します。日本政府も2010年よりこの制度における難民受け入れを行っています。
また、この「特定活動」という在留資格ですが、上記の方たちだけでなく、様々なケースに該当にするものとなっております。
特に一般的なものとしては、大学や専門学校などを卒業した留学生の方たちが各学校を卒業後、日本で継続して就職活動を行うためのものです。最近ですと、クーデターによる情勢不安の影響で日本に在留を希望するミャンマー国籍の方たち向けに緊急避難措置として、「特定活動(1年・就労可)」という日本での在留・就労を許可する在留資格も発給されています。
また、ウクライナからの避難民の方たちも最初は90日間の「短期滞在」という在留資格で入国していますが、その後に1年間の「特定活動」に切り替えをしています。
参考:難民認定制度 | 出入国在留管理庁
令和3年における難民認定者数等について | 出入国在留管理庁
第三国定住 – UN HCR Japan
在留資格「特定活動」 | 出入国在留管理庁
本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置 | 出入国在留管理庁
法務省|トビラ 第2部 出入国在留管理行政に 係る主要な施策等
1-3.難民認定申請の許可率の低さと理由
先ほど、2021年においても難民認定申請をされた方たちの中で、74人の方が日本で難民と認定され、難民とは認定されなかったものの人道的配慮により在留が認められた方も580人いると述べました。
しかし、難民認定申請をされた方は計2,413人おり、単純計算で難民認定が許可された方は3.06%、人道的配慮により在留が認められた方を含めても27.10%という水準に留まっています。
これは、アメリカ(難民認定許可率18.06%)やカナダ(同55.38%)に比べ際立って低く、日本はかなり慎重に審査をしている様子が伺えます。理由としては、下記が挙げられます。
①難民条約の解釈が国によって異なる |
②個別把握論(政府に狙われていなければ難民ではない)が日本にはある |
③人権侵害の範疇が日本では「命や身体的なもの」に限定されがち |
④難民であることの証明を強く求められる。しかも証拠書類は日本語に限られてしまう |
日本の難民認定許可率の低さは度々議論を呼びますが、難民や移民の受け入れに関連する社会的な問題は欧米諸国などでも現実に起きており、受け入れた国の国民と難民・移民の間での軋轢などが現地から報じられています。また、ノルウェーでは2011年に移民政策に反対する男が77人の命を奪うというノルウェー連続テロ事件が起きてしまいました。そのような背景もあり、積極的に難民の受け入れをすることは政治的にできないということも関連していると思われます。
参考:国連難民高等弁務官事務所 – 難民統計
日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から | 認定NPO法人 難民支援協会
77人殺害 ノルウェー連続テロ事件から11年 「憎しみを持たないことが大切」生存者が語るノルウェーの今 | TBS NEWS DIG
2. 難民ビザの外国人を雇用できるのか?
続きまして、こちらでは「難民ビザ」の方を雇用できるのか、について述べていきたいと存じます。
結論から申し上げますと、「特定活動・6月(就労可)」という在留資格を持っている方であれば可能です。
2-1.難民ビザの有効期間
難民認定申請の審査期間ですが、まずは最初の2か月以内が振分け期間となっています。この2か月の間は就労することはできませんが、難民に該当する可能性が高い方や人道的配慮が必要な可能性が高い方には「特定活動・6月(就労可)」という在留資格が付与されます。つまり、6か月間の就労が可能ということです。但し、この在留資格を持っている方は人数的にはとても少ないと言えます。
そもそも難民認定申請は就労するためのものではなく、日本での保護を希望するものですが、2018年の法改正前はこの「特定活動・6月(就労可)」が難民認定申請をしてから6か月経った方にもれなく付与されていた為、本来は全く難民に該当しないにも関わらず、ただ日本でお金を稼ぎたい方たちに悪用されてしまっていました。法改正後は審査が厳格になりましたので、難民認定申請数は年々減少しており、2017年の19,629人に対し、2021年は前年比1,523人減の2,413人でした。
振り分け期間の間にA~Dと判定が下され、この内「特定活動・6月(就労可)」が許可されるのはA判定の方のみとなっております。留学など他の在留資格で活動できる状況にありながら難民認定申請をしていたり、難民条約の迫害理由に該当しない主張をしている場合などはA判定には含まれません。明らかに該当しない申請者は、在留期間が終わるタイミングで帰国することとなります。
A 案件:難民条約上の難民である可能性が高いと思われる案件、又は、本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる案件 |
B 案件:難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件 |
C 案件:再申請である場合に、正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件 |
D 案件:上記以外の案件 ※人道配慮の必要性を検討する必要がある場合はD案件とする |
参考:難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について
令和3年における難民認定者数等について | 出入国在留管理庁
就労制限の対象となる難民認定申請者について | 出入国在留管理庁
難民認定申請をすれば日本で就労できるというものではありません(各国語版) | 出入国在留管理庁
2-2.難民ビザは更新できない?
特定活動・6月(就労可)が付与されている場合、審査結果が出るまで更新ができます。
出入国在留管理庁が公表している難民認定申請案件についての平均審査期間ですが、公表されている者の中で最新の2019年のデータで458日となっています。単純に1か月30日換算しますと、約15か月となります。「特定活動・6月(就労可)」が付与されている場合、審査結果が出るまで6か月毎に更新して、結果を待つという形となります。
尚、難民認定申請が不許可となったことに異議申し立てをすることを「審査請求」と呼び、2021年は4,046名がこの審査請求を行っています。こちらも最終的に難民と認定されない場合、在留期間が終わるタイミングで帰国することとなります。
参考:難民認定審査の処理期間の公表について | 出入国在留管理庁
令和3年における難民認定者数等について | 出入国在留管理庁
2-3.難民ビザで「特定活動・6月(就労可)」の場合は就労制限がない
「難民ビザ」に該当する方で「特定活動・6月(就労可)」の場合、風俗営業等以外の仕事にフルタイムの勤務が可能です。逆に、この在留資格を所持していない方を働かせることはできません。
参考:就労制限の対象となる難民認定申請者について | 出入国在留管理庁
2-4.難民ビザから就労ビザへの切り替えはできる?
結論から申し上げますと、対象となる方が就労ビザの申請条件を満たしていれば申請自体は可能ですが、許可率に関しては低くなると言わざるを得ません。
例えば、就労ビザとして一般的な在留資格「技術・人文知識・国際業務」を取得するためには、対象となる方が母国の大学・短期大学、もしくは日本の大学・短期大学・専門学校を卒業(見込み)していること、またお仕事の業務内容に専門性があり各教育機関で学んだ学問と関連性があることなどが条件となっています。
しかし、2019年3月に出入国在留管理庁が文書で「難民認定は本国における迫害から逃がれて来日した難民が日本に保護を求めるための制度であり,日本で就労することを希望する人のための制度ではありません。」とリリースしており、難民認定申請をした方が就労を目的とするビザに更新申請をすること自体、矛盾しています。また、2018年の法改正により難民認定申請をされた方への審査や待遇がより厳しくなったこともあり、現在では実際の許可率はほぼ0%に近いと言われています。
参考:在留資格「技術・人文知識・国際業務」 | 出入国在留管理庁
難民認定申請をすれば日本で就労できるというものではありません(各国語版) | 出入国在留管理庁
3. 難民ビザを雇用するリスク・注意点
「難民ビザ」の方を雇用する上でのリスク・注意点に関して、大きく下記3点が挙げられます。
①不法就労助長罪に問われるリスク |
②審査終了後、帰国してしまう可能性がある |
③そもそも「特定活動・6月(就労可)」の対象になっている方が少ない |
3-1.不法就労助長罪に問われるリスク
日本で就労する資格の無い方を働かせてしまった場合、不法就労助長罪という罪に問われる可能性があります。不法就労助長罪とは、日本で働くことができない外国人の方を働かせてしまった事業主や斡旋をした者が問われる罪です。その場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処される可能性があります。人手不足から雇用した外国人スタッフが実は不法就労になってしまう可能性があるということです。
雇用主が不法就労と気付いていなかった場合でも、在留カードの確認を行っていないなどの過失があった場合は罰則の対象となります。
「難民ビザ」の方を雇用する場合、在留カードだけではただ「特定活動」と記載されているため、見分けることができません。そこで確認しなければならないのが、パスポートの指定書です。
例えば、こちらの指定書に「原則週28時間以内風俗営業等の従事を除く」と記載されていれば風俗営業等以外の仕事に週28時間就くことができる、という意味合いになります。記載されている内容は多岐に渡りますので、判断がつかない場合は管轄の入国管理局へ問い合わせることをおすすめします。
指定書とは、パスポートに貼り付けられている紙で、滞在の理由や期間、特定活動の詳細な内容が記載されています。
参考:外国人雇用はルールを守って適正に
外国人の適正雇用について 警視庁
地方出入国在留管理官署 | 出入国在留管理庁
3-2.審査終了後、帰国してしまう可能性がある
仮に難民認定申請が許可された場合、永住許可案件の緩和、難民条約に定める各種の権利が認められるなどの権利や利益を得ることができます。
しかしながら、2021年の3.06%という許可率の低さを見ると、不許可になる可能性が高いと言わざるを得ません。不許可になった場合、在留期間が終わるタイミングで帰国することとなります。つまり、長期の雇用は難しい可能性が高いということです。
参考:難民認定制度 | 出入国在留管理庁
難民認定申請をすれば日本で就労できるというものではありません(各国語版) | 出入国在留管理庁
3-3.そもそも「特定活動・6月(就労可)」の対象になっている方が少ない
これは身も蓋もない話ですが、そもそもの難民認定申請の許可率も相まって、「難民ビザ」の方で「特定活動・6月(就労可)」の対象になっている方は少数と言わざるを得ないでしょう。
就労を希望されて面接に来た外国人の方が「特定活動・6月(就労可)」だったというのは、かなりのレアケースかと存じます。
参考:令和3年における難民認定者数等について | 出入国在留管理庁
4. まとめ
結論として、「難民ビザ」の方の中で実際に難民と認定されている方、また就労可能な方はとても少数ということがお分かりになったと思います。
しかしながら、実際に雇用される際、不法就労助長罪になるリスクも可能性としてはあるため、「仕事をしたいです。」と面接にいらっしゃった外国籍の方のパスポートの指定書の確認、それでも判断がつかない場合は管轄の入国管理局への確認をおすすめ致します。
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