不法就労とは

「不法就労」という言葉、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。不法就労者は年々増加していて、2019年に入管(出入国在留管理庁)が認知した不法就労事件は1万2,816件で、前年より2,730件も増加する結果となりました。
不法就労とは、「外国人が違法な状態で就労すること」を意味し、大きく分けて2つのパターンがあります。

就労できない人が働く場合

在留資格とは?一からわかりやすく解説!でも触れましたが、日本にいる外国人は、誰でも働くことができるわけではありません。外国人がそれぞれ付与されている在留資格に応じて、働くことができるかどうかが決められています。
旅行などを目的に来日した短期滞在者や、「留学」の在留資格を持っている留学生は働くことができません(留学生については、入国管理局で手続きをすれば週28時間までは就労可能)。もちろん、在留期間を超えるなどして不法滞在している外国人も働くことはできません。
こういった就労が認められていない人が働くことは、不法就労となります。

許可された範囲を超えて働く場合

就労が認められている在留資格であっても、その範囲は限定的であることが多いです。例えば、「特定技能」や「特定活動」は就労可能な在留資格ですが、就労にあたっては入国管理局から「指定書」が交付され、この指定書で指定された会社でのみ働くことができます。
また、指定された会社であっても、それぞれの在留資格に応じた業務以外の仕事をすることも不法就労にあたります。

【具体例】
宿泊業の特定技能を例に挙げると、この在留資格はフロントや接客などがメインの仕事とされています。館内清掃や備品の補充といった単純作業も、日本人従業員と同じくらいの業務量であれば従事させることができますが、掃除ばかりさせたりしていると、不法就労とみなされるおそれがあります。 これ以外にも、留学生は手続きをすれば週28時間までは就労可能となりますが、週28時間を超えて働くことも不法就労にあたります。

不法就労助長罪とは

不法就労をした外国人は、入国管理局による摘発を受けると、退去強制(いわゆる強制送還)処分となります。ただし、処罰を受けるのは不法就労をした外国人だけではありません。
外国人を雇用して不法就労の状態にさせると、雇用者は入管法(正式には「出入国管理及び難民認定法」)の第73条の2に基づく罰則を受けます。一般に不法就労助長罪と呼ばれるもので、これに牴触すると3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその両方が科せられます。「知らなかった」では許してもらえません。
そして、影響があるのは懲役や罰金だけではありません。この不法就労助長罪で有罪となってしまうと、5年間は特定技能人材や技能実習生を自社で受入れることができません。新たに受入れができなくなるだけでなく、特定技能人材や技能実習生を受入中に不法就労助長罪で有罪となると、特定技能人材や技能実習生は全員雇用を続けられなくなります。

不法就労に巻き込まれない方法

最近は、様々な手段で外国人を雇用できるようになっています。不法就労助長罪の影響がいかに大きいかわかったとしても、意図せず不法就労に巻き込まれることも考えられます。以下では、不法就労から身を守る方法をご紹介します。

在留カードの確認

在留カードとは、旅行者など「短期滞在」の外国人を除いたすべての人が持っている身分証です。外国人を雇用する場合、在留カードの確認は必須です。在留カードにはその人の在留資格が記載してあります。
在留資格は29種類ありますが、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」の4つの在留資格は就労制限がないので、どういった仕事でも就くことができます。この4つ以外の在留資格は就労制限があったり就労不可だったりします。
就労不可の外国人を雇用するともちろん不法就労助長罪に該当しますし、就労制限を超えて雇用した場合も、不法就労助長罪に問われるおそれがあります。
また、ニュースなどにも出ていますが、在留カード自体を偽造するグループが増えてきています。働きたいと言ってきた外国人が、もしかすると偽造した在留カードを見せてくるかもしれません。在留カード自体が有効なものかどうか、法務省のホームページでチェックすることも欠かせません。

在留資格の知識向上

手間暇が掛かってしまいますが、在留資格について知識をつけておくことも大切です。Divershipでは在留資格についても解説していて、既に「特定技能」や「技能実習」、「技術・人文知識・国際業務」については記事を掲載しています。
登録支援機関や監理団体が斡旋する特定技能人材や技能実習生が不法就労者であることは通常考えられませんが、それ以外で人材会社や派遣会社などが斡旋してくる外国人の中には、”怪しい”外国人も少なくありません。
少なくとも、雇用しようとする外国人の在留資格とその在留資格の本来の目的については、インターネットなどで調べることが重要になってきます。

外国人を雇用する目的の再確認

これまでのところ、日本政府は単純労働を目的とした外国人の入国を認めていません。「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」の4つの在留資格の外国人と週28時間以内の就労許可を得た留学生などは単純労働目的で雇用することが可能ですが、それ以外の在留資格の外国人は単純労働をさせるために雇用することができません。
どのような業務をさせるために外国人を雇用するか、その業務に適した在留資格はあるのかを情報収集することも、不法就労への防衛策の一つです。

まとめ

日本政府は、外国人が日本国内で働くことに対して様々な規制を行っています。その理由の一つは、日本人の雇用を守ることにあります。
しかし、いくら募集しても日本人からの応募がないからとか、日本人は来てもすぐに辞めていくといったことから、外国人の雇用を検討することもあるでしょう。
法令を遵守した形での外国人雇用はまったく問題ありませんが、「よくわからないけど派遣会社が紹介してくれた外国人でいいか」というのはあまりにもリスクが大きいです。それが不法就労者だと将来に亘って大きな影響が及びます。
2019年の不法就労事件1万2,816件のうち、62.7%は不法就労を始めて1年以内に摘発されています。不法就労者の雇用は長く続けることはできません。
不法就労には関わらないように、そして巻き込まれないようにすることが何より大切です。

参考資料
法務省「令和元年における入管法違反事件について」
http://www.moj.go.jp/content/001317694.pdf(2020.10.26閲覧)

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竹村 友希

過去3000名以上の外国人を指導してきた日本人理解授業を担当する講師。前職の介護職での経験を生かし、日本人の人口の大半を占める高齢者層と、どのようにコミュニケーションをとるべきか、どのような理解が必要かなどをメソッド化し教えている。