2月1日にミャンマーでクーデターが発生し、ミャンマー国軍が政権を掌握する事態となりました。
今回は、クーデターに関する情報、そして特定技能や技能実習でのミャンマー人材採用への影響をまとめます。
ミャンマーでのクーデターの日の状況
アウンサンスーチー氏らが軟禁
ミャンマーでは昨年11月に総選挙が行われ、2月1日は総選挙後初めて国会が召集される日でした。
これに備えて、アウンサンスーチー国家顧問が率いる与党・NLD(国民民主連盟)の議員らが首都・ネーピードーに集まっていましたが、ミャンマー国軍がアウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領らNLD幹部を監視下に置き、軟禁状態としました。
その後、国軍が所有するテレビ局「ミャワディーテレビ」を通じて、権力を掌握したことを宣言し、1年間の非常事態宣言を発令しました。
電話・ネットを遮断
ミャンマー国軍は続いて、首都・ネーピードーや最大都市のヤンゴンで、携帯電話のネットワークや一部インターネットの遮断を行いました。また、国営のテレビ・ラジオ放送も停止しました。
ヤンゴンの小売店などでは食料の買占めが置きたり、ATMに長蛇の列ができるなどしましたが、この日の段階では国民の社会活動に重大な影響が出ることはありませんでした。
インターネットの遮断なども、その日のうちに解除されました。
国軍によるクーデターの理由は?
昨年11月の総選挙で国軍側が惨敗
ミャンマーは少数民族が多く、国内を治めるためもあり軍政が長く続いてきました。こういった流れから、ミャンマーには軍系の政党(連邦団結発展党、略称:USDP)が存在します。
しかし、USDPは多くの国民から支持を得られておらず、昨年11月の総選挙では、アウンサンスーチー国家顧問が率いるNLDが圧勝、USDPが大敗する結果となりました。
これに対して国軍は有権者の重複登録などによる不正選挙を主張し、政府などに調査を求めていましたが、調査が行われることはありませんでした。
利権を維持したい国軍
ミャンマーは2011年に軍政から民政移管されましたが、議会における国軍の影響力も残されたままとなっています。一例を挙げると、現在でも国会議員の25%はミャンマー国軍最高司令官が指名することが憲法で定められています。
このようないわゆる既得権益により、ミャンマー国軍は様々な利権を得ています。総選挙でNLDが大勝したことから、国軍は利権の減少を懸念して強硬手段に出たとも言えます。
クーデター後のミャンマーの状況は?
アウンサンスーチー氏らは「別件逮捕」
与党のNLDを率いていたアウンサンスーチー国家顧問は、国軍の家宅捜索で無線機が発見されたとして、輸出入法違反で訴追されました。事実上の別件逮捕です。またウィンミィン大統領も、災害管理法違反で訴追されています。
政権を掌握した国軍は、旧軍事政権でも大臣を務めた人物を複数人起用する新閣僚人事を発表し、外交政策などはNLD政権の方針を踏襲することを明らかにしました。
規模を増す抗議デモ
5日から、首都ネーピードーや最大都市のヤンゴンなどミャンマー各地でデモが断続的に行われていて、アウンサンスーチー国家顧問らの解放などを求めています。
国軍は集会禁止令やSNS規制などで国民の団結を阻もうとしていますが、デモの規模は日を増すごとに大きくなってきています。
デモ参加者に対してミャンマー警察が発泡する事件も起きており、状況は深刻の度合いを増しています。
ミャンマー人材採用・管理への影響
短期的には混乱続くか
国民のよる抗議デモへは、政府機関で働く公務員や警察官も参加するようになってきています。これにより、ミャンマー人の出国関連手続きへの影響が考えられます。
ミャンマー人が外国で仕事をする際は、労働省が主催する3日間の講習を受講し、さらにミャンマー労働局から「スマートカード」を発行してもらう必要があります。労働局の一部の職員も抗議デモに参加しているため、スマートカードの発行が遅延するおそれがあります。
通信規制でコロナ禍の採用活動にも悪影響
国軍と国民の対立がエスカレートする中、国軍は通信分野の規制を強めています。
ミャンマー人が利用している主なSNSはFacebookですが、国軍はFacebookにアクセスできないようにしたり、インターネットを規制する法案を作ったりしています。
コロナの影響で新たな人材採用はオンライン面接などが主流になっていますが、安定した通信環境が確保できなくなっています。
出稼ぎ労働者は増加の見込みも
目下のところ出国・面接の点で影響が出ていますが、長期的に見ると、ミャンマー人材は有望な採用手段といえます。
NLD政権下では外国からの投資が多数流入し、現地ミャンマー人の雇用が創出されてきました。しかし、国軍によるクーデターを受けて、アメリカは経済制裁を示唆しており、タイ企業によるヤンゴン投資事業は既に凍結されています。
こういったことから、ミャンマー人労働者の海外志向は高まり、日本での就労を希望するミャンマー人も増加することが見込まれます。
不用意に国軍を擁護しない
ミャンマー国軍によるクーデターの報道以来、在日ミャンマー人も東京や大阪でデモ活動を行っています。
ミャンマー人は、私達日本人が想像する以上に強く国軍への反発心を持っています。また、多くの日本人よりも、デモ活動へ参加することに抵抗がありません。
既にミャンマー人を雇用している企業は、国軍側を擁護するような発言を避けることが望ましいです。
まとめ
国軍によるクーデターに対する国民の反発は強く、今後、国軍がどのように事態を収拾するか見通せません。
短期的には混乱が生じることが予想されますが、先にも述べたように、長期的には出稼ぎ労働者が増加すると見られます。
ただし、出稼ぎ先としてのミャンマー人の選択肢は、日本だけでなく隣国のタイやマレーシア、韓国など様々です。
日本がミャンマー人に選ばれる国になるためにも、労働環境を整えておく必要があるでしょう。
<参考資料>
産経新聞「ミャンマー国軍 見えぬ出口戦略 総司令官、スー・チー氏と確執か」
https://www.sankei.com/world/news/210202/wor2102020032-n1.html (2月13日閲覧)
時事通信「スー・チー氏、緊張解消できず 国軍は改憲の動き警戒―ミャンマー」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021020200873&g=int (2月13日閲覧)
時事通信「ミャンマー、スー・チー氏訴追 有罪なら禁錮刑の可能性」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021020301215&g=int (2月13日閲覧)
産経新聞「ミャンマー警官隊、実弾発射の可能性 女性重体」
https://www.sankei.com/world/news/210210/wor2102100018-n1.html (2月13日閲覧)
読売新聞「ミャンマー抗議デモ、政府職員も参加」
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210210-OYT1T50250/ (2月13日閲覧)
7Day News「タイ・アマタコーポレーションがミャンマーで開発予定の10億ドルプロジェクトを停止」
https://7day.news/detail?id=303112 (2月13日閲覧)
竹村 友希
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