技能実習と特定技能
技能実習と特定技能、どちらも政府が創設した制度で、外国人を採用するための手段となっています。ちなみに、それぞれの制度の目的はというと、技能実習は「技術移転による国際貢献」、特定技能は「即戦力となる外国人受入れによる人手不足対策」となっています。
どちらの制度もいろいろな面で一定の制限が設けられていますが、それさえクリアしていれば、会社の経営判断に応じて好きな方を利用することができるようになってきます。今回は、技能実習と特定技能のどちらかを選ぶ際に、どういった面から検討すればよいかについてご紹介したいと思います。
技能実習と特定技能については下の記事で説明しております。
コスト面
給与
まずは給与設定の部分から解説していきたいと思います。
技能実習の場合ほとんどが未経験者なので、一定数の企業が最低賃金ベースで実習生を受入れています。技能実習の制度上、実習生の給与は、「仕事内容などが同じ日本人と同等以上にしなければならない」となっていますが、書類の書き方次第で監督官庁からの許可を貰えます。
一方、特定技能で外国人を受入れる場合は最低賃金ベースとはいきません。特定技能は一定の経験を持った外国人を受入れる制度で、外国人側もそれなりの金額を求めてきます。最低でも月給20万円程度となるでしょうし、建設業の特にとびなんかでは、月給30万円で受入ている特定技能の外国人もいます。特定技能は安い労働力ではありません。
また、特定技能の給与設定については、入管や国交省(建設業の場合)も厳しく審査してきます。特定技能は「ハローワークなどで日本人を募集しても日本人が来ません。なので外国人を採用します」という前提条件となっているので、日本人を求人していたときの条件の提示が求められ、特定技能外国人の給与が正当な理由なく日本人より低ければ、外国人の給与を引き上げるよう指導され、これに従わなければ許可が貰えません。
このため、給与面では実習生のほうが安く抑えられます。
ランニングコスト
実習生を受入れる場合、入国前後のサポートをしてくれる監理団体に毎月監理費を支払わなければなりません。この監理費、監理団体によって金額はまちまちですが、平均すると35,000円ぐらいが相場です(さらに、外国の人材派遣会社へも毎月5,000円程度支払いが必要です)。監理費は、監理団体によっては安ければ2万円台、高ければ5万円くらいに設定しているところもあります。直感的に考えると監理費は安く抑えたいところですが、あまり監理費の安い監理団体は考えものです。監理団体にとって一番コストが掛かるのは人件費ですが、監理費が安い監理団体は人件費を抑えざるを得ないので、その分だけ実習生のサポートが手薄になります。もちろん高い監理費のところでもそれに見合ったサポートをしてもらえるかはわからないので、契約する前に監理団体からよく話を聴くことが重要です。
次に特定技能の場合ですが、こちらは自社のみで受入れるか、登録支援機関に支援を委託するかで費用が変わってきます。自社のみで受入れる場合はもちろん追加コストは掛かりません。ただし、2年以内に中長期在留者(エンジニア、実習生など)を自社で雇用し、適切に管理していた実績が必要になります。また、書類も自前ですることになるので、時間的コストは想像以上に大きいものになります。登録支援機関に支援を委託する場合ですが、この場合は「支援委託費」というものを毎月登録支援機関に支払うのが通常です。ただ、実習生の監理団体とは違い、登録支援機関は受入れた外国人に対してあまりコミットしてきません。入国後は3カ月に1回見回りに来るくらいなので、支援委託費も2万円台〜3万円台前半といったところが相場になってきています。
このためランニングコストの面では特定技能の方が安く済みます。
職種
技能実習・特定技能のどちらも、職種の制限が掛けられています。指定の職種でないと、3年(もしくは5年)外国人を受入れることができません。
技能実習の職種は、これまでのところ82の職種が認められていてこれに該当すれば実習生を受入れられるという仕組みになっています。
一方、特定技能は、14分野が定められていて、これに該当すれば特定技能で外国人を受入れられます。
技能実習と特定技能を比較すると、技能実習と特定技能の両方にある職種、特定技能にしかない職種の両方があります。特定技能にしかない職種の場合、選択の余地がないので外国人の受入れは特定技能でせざるを得ません。
宿泊業・外食業・介護業・農業での外国人雇用について別の記事で説明しています。
人材の質
技能実習は現地で送り出し機関と言われる仲介会社にお金さえ積めば、誰でも技能実習生として日本にくることができる側面があります。また、日本に来たことがない外国人がほとんどなので日本語レベルは簡単な挨拶程度ができるレベルがほとんどです。
対して特定技能は技能実習生としての3年以上の経験もしくは技能試験や日本語能力試験をパスした外国人にのみ許されるビザになります。よって技能だけでなく日本語レベルも技能実習より高い外国人が多いです。
人材の質に関しては、個人差は当然ありますが、相対的にみて特定技能の方が良い人材の可能性は高いと言えます。
定着率
技能実習・特定技能どちらも人材採用手段の一つなので、定着率というのも重要になってきます。
日本人の新卒を採用した場合の3年定着率は、厚労省が発表している統計によると30%台ということですが、実習生の場合、定着率は90%以上となってきます。これはなぜかというと、実習生は3年間一つの企業で仕事をする(原則として転職が認められない)制度であることに加え、失踪率2%台、途中帰国(失踪以外の離職)率も高く見積もって5%程度だからです。
特定技能のほうはどうかというと、制度として始まったばかりなので具体的な数字は出ていませんが、実習生よりも離職率が高くなることが予想されます。というのも、実習生とは違って、特定技能の場合、同じ職種内であれば転職が自由だからです。
まとめ
ここまで、①給与、②ランニングコスト、③職種、④人材の質、⑤定着率について技能実習と特定技能を比較して見てきました。改めてまとめると
1 給与・・・技能実習 > 特定技能
2 ランニングコスト・・・特定技能 > 技能実習
3 職種・・・技能実習 > 特定技能
4 人材の質・・特定技能>技能実習
5 定着率・・・技能実習 > 特定技能
筆者の個人的意見になりますが、
技能実習の該当職種であり、
日本語があまり話せない外国人がきても問題なく作業ができる仕組みができている企業さまは技能実習がおすすめです。
飲食業や宿泊業など、特定技能でしか外国人を雇用できない場合は、特定技能を活用するしかないので、注意が必要です。
ある程度日本語での意思疎通が必要だったり、外国人にも責任ある仕事を任せていきたいような企業さまは特定技能がおすすめになります。
藤井 拓海
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