特定技能とは、外国人に対して一定の範囲内で単純労働させることができる制度です。似たような制度に技能実習がありますが、これと大きく違うのは、特定技能人材は転職できるということです。
せっかく採用した外国人が転職してしまうと、コストの面でも目に見えない形でも、会社にとって様々なダメージがあります。
今回は、特定技能の外国人はどういう条件で転職できるかを確認し、離職率を下げる方法を考えてみます。

特定技能人材の転職

転職の条件

特定技能は農業や宿泊業など14業種について、外国人の受入れを認めています。(特定技能について詳しくは、【2020年最新版】3分でわかる、特定技能ビザとは?就業可能な職種は?」もぜひご覧下さい)
外国人が特定技能で日本で就職するためには、各業種についての試験に合格するか、関連する技能実習を3年間修了しておかなければいけません。
そして、特定技能人材が就職後に転職しようとした場合、同じ業種でなければ転職できません。つまり、農業で仕事をしている特定技能人材が、宿泊業や外食業に転職することはできないのです。
(ただし、農業で仕事をしながら宿泊業など別業種の試験に合格すれば、合格した業種に転職することは可能です。)

転職の方法

日本人が仲介

現在、新型コロナの影響もあり、特定技能外国人の人数は伸びていません。入管の資料によると、今年9月末の時点で8,769人しか日本で特定技能の仕事をしていません。
しかし、今後特定技能外国人の人数が増加すれば、国内で転職を斡旋する会社が間違いなく多数登場します。このように、日本人が特定技能外国人の転職を加速させるパターンが、まず1つ目です。

外国人のネットワーク

特定技能外国人の転職方法のもう1つ大きなものは、彼らのネットワークです。FacebookなどのSNSにはベトナム人のコミュニティがあり、転職に関する情報も氾濫しているといっても過言ではありません。
勤務地と月給だけ書いてあるような求人だったり、真偽不明の情報が混じっていたりしますが、彼らはそれだけの情報で転職を決めることもあります。

なぜ転職しようと思うのか

特定技能人材が転職しようする動機は、日本人と大差ありません。それは、端的に言って

  • おカネ
  • 人間関係

です。特に、外国人はおカネにシビアで、月給が1,000円上がるというだけでも平気で転職します(もっとも、日本人にとっての1,000円は、ベトナム人にとっての1万円と言っても過言ではありません)。
私達が転職するときは職場環境や福利厚生なども検討しながら転職先を決めますが、特定技能の外国人にとって、給料(手取り額)が転職の意思決定の9割以上を占めます。

転職率を下げるための方法

日頃から信頼関係を築いておく

外国人の転職率を下げるためには、おカネとともに人間関係が大切です。社内での人間関係が良くないと、多少給料を高めに設定していても、転職率は上がってしまいます。
信頼関係を高めるためには、もちろん、外国人だからといって差別しないことが重要です。逆に、外国人だからといって優遇しすぎないことも重要です。ベトナムやネパールの若者が田舎から日本に来て、一生懸命仕事をしているといろんな面で目を掛けてやりたくなりますが、優遇しすぎると日本人従業員との間に”逆差別”意識が起き、トラブルとなることがしばしばあります。
日本人も外国人も平等に接するのがベストです。

リスクを知らせてあげる

外国人ネットワークでの転職

特定技能人材が自分達のネットワークで転職しようとする場合、日本での転職はどのようなリスク・デメリットがあるかを教えてあげることで、転職を思い止まらせられることがあります。労働に関する法律やルールは彼らの母国とは違うので、1,000円でも2,000円でも給料が高いところを目指して、周りが見えなくなっていることがあります。

転職先は?

このような場合、特定技能人材に対しては、一度立ち止まって考えさせてあげましょう。「転職する」といってきたときは

  • どこに行くのか(勤務地・会社名。会社名が言えないことも多い)。
  • 労働法、会社規定で、退職可能日は決まってる。前倒しはできない。
  • 退職に関する手続きはするが、他社への入社に関する協力は会社としてはしない。これは日本人も同じ。

ということを質問したり、筋道立てながら教えてあげたりすることが重要です。

登録支援機関を頼る

特定技能人材の採用にあたって登録支援機関を活用している場合は、登録支援機関を頼ることも大切です。
外国人とのやりとりになるので、転職というトラブルになりがちな問題は通訳を介して意思疎通することが欠かせません。
ちなみに、登録支援機関は「特定技能人材がリストラされたときに転職先を探す」役割であるため、特定技能人材自身が転職したいと言ってきた場合に、何かをする義務はありません。
ただ、「転職」は外国人を受入れる際に比較的よくある問題なので、登録支援機関を選ぶ際に「外国人が自主的に転職しようとしたとき、通訳などのサポートはしてもらえますか?」などとサービス内容を確認しておくといいでしょう。

待遇を整えておく

ここま解説設してきたように、ベトナム人やネパール人をはじめとする外国人は、日本人よりも気軽に転職します。それを食い止めるのは、やはり毎月の給料です。
会社としては人件費はなるべく抑えたいところですが、給料が安ければ安いほど転職リスクは上がります。
5年間戦力として働いてもらうためには、それなりの給料にするか、なるべく細かく昇給・ボーナスの条件設定をしておくことが対策の一つとなります。

転職でトラブルにならないために

労働者が会社に行うべき退職連絡の期限は、会社によって1カ月前〜2周間前など様々です。しかし、多くの外国人はこのことを知らず、来週で辞めるなどと言ってきます。
転職先がきちんとしているところであれば、事前に退職連絡するよう本人に指南するはずですが、直前になって辞めると言ってくるような場合は、労働法や会社規定に則って毅然と対応することが欠かせません。もし複数外国人を雇っていれば、「これでいいんだ」と思われてしまいます。
また、退職関連では、外国人と日本語のやり取りではミスコミュニケーションが起きることが十分あり得ます。そうならないよう、重ねてになりますが、登録支援機関のスタッフなど通訳を介して意思疎通するようにしましょう。

このサイトでは外国人労働者との効果的なマネジメントコミュニケーション方法について説明しています。ぜひご覧ください。


<参考資料>
出入国在留管理庁「特定技能1号在留外国人数(令和2年9月末現在)」
http://www.moj.go.jp/isa/content/001334461.pdf(R2.12.25閲覧)

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竹村 友希

過去3000名以上の外国人を指導してきた日本人理解授業を担当する講師。前職の介護職での経験を生かし、日本人の人口の大半を占める高齢者層と、どのようにコミュニケーションをとるべきか、どのような理解が必要かなどをメソッド化し教えている。