特定技能外国人の活用が全国的に活発になってきています。所管する出入国在留管理庁の発表によると、今年3月末時点での特定技能外国人の人数は2万人を突破しました。特定技能外国人は一定の条件下で柔軟に雇用できるようになっていますが、「派遣」での雇用は可能なのでしょうか。

派遣が可能な業種

結論から述べると、農業と漁業の2業種に限っては、特定技能外国人を派遣で雇用することが認められています(令和3年2月19日時点)。これ以外の外食業や製造業などでは、特定技能外国人の派遣雇用はできません。
農業・漁業で派遣雇用が認められている理由としては、両業種とも「季節による作業の繁閑が大きく、繁忙期の労働力の確保や複数の産地間での労働力の融通といった現場のニーズがある」ためと所管する法務省は説明しています。
特定技能外国人を派遣雇用した場合は、当然のことながら、日本人を派遣雇用するときと同様に、労働者派遣法などの関係法令を遵守しなければなりません。

農業における特定技能外国人の派遣

農業で特定技能外国人の派遣元となる派遣事業者になるためには、特定技能所属機関一般の基準を満たしたうえで、さらに以下のいずれかに該当している者と定められています。

  1.  農業または農業関連業務を行っている事業者
    (農業協同組合、農業協同組合連合会、農業者が組織する事業協同組合など)
  2.  農協や地方公共団体が資本金の過半数を出資している事業者
  3.  農協や地方公共団体が業務執行に実質的に関与していると認められる事業者
    (農協などの役職員や地方公共団体の職員が役員となっているなど)
  4.  国家戦略特区で農業支援外国人受入事業を実施している事業者

なお、特定技能外国人を派遣雇用したい場合については、追加の要件は特にありません。関係法令を遵守しておけば十分です。

漁業における特定技能外国人の派遣

漁業において派遣事業者となるためには、農業と同様に特定技能所属機関一般の基準を満たしたうえで、さらに以下のいずれかに該当している者と定められています。

  1.  漁業分野に係る業務またはこれに関連する業務を⾏っている者
  2. 1に該当する団体や、地⽅公共団体が資本⾦の過半数を出資している者
  3. 1に該当する団体や、地⽅公共団体が業務執⾏に実質的に関与していると認められる者
    (1に該当する団体などの役職員や地⽅公共団体の職員が役員となっている等)

上記のように1から3まで挙げられてはいますが、派遣事業者としては漁協が第一に想定されています。
また、派遣雇用したい場合は、農業と同様に追加の要件はありません。

派遣のメリット

直接雇用で特定技能外国人を雇用した場合、たとえ同一地域内でも、別の農業事業者のからの「転職」で農業に従事するときは、入管へ変更許可申請を毎回出さなければなりません。許可までには2週間〜1カ月掛かるのが一般的で、審査手数料も必要となってきます。
一方派遣であれば、面倒な変更許可申請を出す必要はありません。人手が必要な時期に、必要な期間だけ特定技能外国人を雇用することが可能です。
また、特定技能外国人を直接雇用した場合は業種ごとの「協議会」へ加入しなければなりませんが、派遣雇用の場合は加入不要です(派遣元企業が協議会に加入します)。煩雑な手続きが削減されるのもメリットの一つです。

派遣雇用できない時は?

派遣雇用ができない業種の場合、特定技能1号の5年間雇用を継続しなければならないのかというと、決してそうではありません。
特定技能外国人は有期雇用が可能なので、例えば1年ごとに雇用契約を更新するといったことが可能です。ただし、特定技能は原則としてフルタイム勤務でなければならないので、パートタイム勤務をさせることはできません。
なお、特定技能外国人の在留資格は4カ月・6カ月・1年のいずれかで許可されるため、雇用契約を短い期間(3カ月など)で更新する場合は、入管から修正を求められる可能性があります。
また、特定技能外国人の在留期間更新の申請は必要書類が多岐にわたるため、手続きのことを考えれば、1年更新としておく手と間を最小限に抑えることができます。

短期雇用の懸念点

雇用期間は自由に設定することが可能ですが、短すぎる場合は注意が必要です。特定技能外国人の側が短期間で転職先を探さなければならなくなるため、求人を出しても応募が少ないということが起こるかもしれません。

まとめ

農業・漁業では派遣雇用が可能なため、仕事に繁閑の差が大きい場合は積極的に活用することを検討してはいかがでしょうか。
その他の業種では、これまでのところ派遣雇用は認められていません。しかし、特定技能外国人に対しては、日本人と同様に雇用期間を自由に設定することができます。
業務量が見通せないときや短期間だけ人手が必要という場合は、その期間だけ雇用することも可能です。

【参考資料】
農林水産省「新たな外国人材受入れ制度に関するQ&A(農業)」
https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/index-24.pdf(2021.6.3参照)
農林水産省「新たな外国人材受入れ制度に関するQ&A(漁業)」https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/attach/pdf/tokuteiginou-6.pdf(2021.6.3参照)

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竹村 友希

過去3000名以上の外国人を指導してきた日本人理解授業を担当する講師。前職の介護職での経験を生かし、日本人の人口の大半を占める高齢者層と、どのようにコミュニケーションをとるべきか、どのような理解が必要かなどをメソッド化し教えている。