特定技能人材の受入れについて情報収集していると、リスク面の説明で「特定技能人材は転職ができる」ということが必ずと言っていいほど書かれています。
もちろん、制度上転職ができるようになっているのは事実ですが、特定技能人材の転職には様々な制約が立ちはだかっていて、日本人ほど簡単に転職できるわけではありません。
今回は、実際のところ転職リスクはどのくらいあるか、多角的に解説していきたいと思います。

特定技能人材の転職を巡る条件

まず、特定技能人材はどういう条件下で転職できるかを確認したいと思います。
特定技能が14業種で認められているというのは有名ですが、各業種はさらに複数の業務区分に分類されます。例えば建設業であれば、土工・鉄筋施工・電気通信などの業務区分があります。
土工で特定技能の在留資格を取得した場合、他の会社で土工の業務に従事するのであれば転職可能ですが、それ以外の業務に従事する場合は、試験の合格が必要となります。

転職にまつわるハードル

5年間雇用できない

特定技能の1号は、通算で5年間の就労が認められることになっています。
しかし、転職者を中途採用をするということは、ある程度の期間は既に特定技能で就労済みということになります。
特定技能人材を受入れる際にはできるだけ長く働いてもらいたいところですが、転職者受入れの場合は、5年間働いてもらうことができません。
5年間就労可能という特定技能の大きな魅力の一つが削がれるのであれば、特定技能人材については、中途採用ではなく海外から呼び寄せるようとする企業が多くなるでしょう。

新規雇用と同じ煩雑な手続き

転職で特定技能人材を受入れる場合であっても、入管への手続きは簡単ではありません。
新たに海外から人材を呼び寄せるときと同じように、20〜30種類の書類を準備・作成して申請する必要があります。
また、申請は転職する人材が住んでいる地域の入管へ行わなければならないので、工場が関東であっても九州で就労中の人材を採用決定した場合は、本人を連れて福岡の入管まで申請に行かなければなりません。
登録支援機関を使わず自社のみで受入れる場合は、こういったところでも時間を取られてしまうのがネックです。

引き抜きの自粛

特定技能人材の受入れが認められている14業種においては、それぞれ協議会が設立されています。
そして、飲食料品製造分野や介護分野など一部の協議会では、特定技能人材の引き抜きを自粛することが申し合わされました。
その理由として、例えば飲食料品製造分野の協議会は、「大都市圏等特定地域に外国人が過度に集中することを予防する観点から,他地域で雇用されている外国人労働者を積極的に引き抜き雇用することを自粛する」としています。
この申し合わせ自体は異業種間の転職のハードルとなるわけではありませんが、そもそも異業種の転職は新たに試験合格が必要となるなど、そもそも条件が厳しくなっています。
同業種・異業種とも転職はなかなか難しそうです。

能力が高い人材は転職市場に来るのか

仕事をするスキルが高かったり、日本人ともうまくコミュニケーションが取れたりするような外国人材は、転職されないように在籍中の会社からそれなりの待遇を獲得しています。
転職の求人に応募してくるのは、今働いている会社の給料が低かったり、人間関係がうまくいっていなかったりする外国人材です。
もちろん、優秀な人材が応募してくることもあるでしょうが、確率はあまり高くありません。

転職者は、いずれ転職する

日本人を中途採用したけど、短期間で転職していった。こういったケースはよくあると思います。
これは、外国人材も同じです。特に特定技能で転職しようとする外国人のうち一定数は、上で述べたように現状に不満のある人です。
在籍中の会社に不満があって転職してくる人が、転職先に満足するということは稀です。不満を感じることがあれば、再び転職して解決しようとします。
転職で特定技能人材を受入れたとしても、3年、4年と働いてくれるかどうかは不透明です。

ただし、当面は転職もそれなりにある

現在は新型コロナウイルスの影響で、海外からの人材の受入れができなくなっています。
この影響で、国内での転職による特定技能人材の求人が増加しています。現に、転職に関する入管への申請件数は増加しているようです。
ご説明したように転職にまつわるリスクは様々ありますが、新型コロナウイルスの影響が続く間は、国内での転職がある程度活発に行われそうです。

まとめ

特定技能の説明を受けるときに必ず言われる「転職可能」というのは、受入れ側にとって必ずしもリスクになるとも言えません。
もちろん、それは特定技能人材に対する受入れ体制がある程度整っている会社の場合に限ります。
日本人でさえも定着しないような会社であれば、特定技能人材が定着することは考えにくいです。自社を働きやすい職場にすることも大切です。

参考資料
出入国在留管理庁「特定技能制度の施行状況について」http://www.moj.go.jp/content/001296042.pdf(R3.6.23閲覧)

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竹村 友希

過去3000名以上の外国人を指導してきた日本人理解授業を担当する講師。前職の介護職での経験を生かし、日本人の人口の大半を占める高齢者層と、どのようにコミュニケーションをとるべきか、どのような理解が必要かなどをメソッド化し教えている。