特定技能人材を雇用する企業は、法律で定められている「支援」を行わなければなりません。
登録支援機関に「支援」の実施を委託することができますが、毎月委託費を支払うことになるのが一般的です。
この記事では、登録支援機関を利用せず、自社で特定技能人材を雇用した後に、どのような「支援」を行っていかなければならないかをわかりやすく解説します。

入社直後に必要な「支援」

生活オリエンテーション

特定技能人材を雇用してまず初めに行わなければならないのが、生活オリエンテーションです。
8時間以上掛けて行う必要があるとされており(技能実習生から特定技能に変更の場合は4時間以上)、原則として対象となる外国人の母語で行わなければなりません。
生活オリエンテーションで情報提供しなければならない項目として明示されているものは17項目もあります。主要なものの例を挙げると、次のようなものとなります。

  • 銀行・ATMの利用方法
    ・入出金・振込等の方法、利用可能な時間、手数料
    ・出国する場合などは口座を閉鎖すること、再入国予定がある場合には出国前に銀行に相談すること
  • 病院の利用方法
    ・利用可能な医療機関(症状別)、受診方法、保険証を持参すること
    ・アレルギー・宗教上の理由により治療に制限がある場合は、その旨を説明すること
    ・通訳人が配置されているなど、外国人患者の受入れ体制が整備されている病院の情報
  • 交通ルール
    ・歩行者は右側通行、車両は左側通行・歩行者優先であること、自転車を運転する場合は自転車損害賠償責任保険への加入
    ・自動車、バイク等を運転する場合は運転免許が必要であること(必要に応じて、運転免許の取得方法・自動車保険の任意保険への加入)
  • 交通機関の利用方法等
    ・地域の公共交通機関とその利用方法
    ・勤務先までの経路及び所要時間
    ・通勤定期、切符、ICカードの購入・利用方法
  • 生活ルール・マナー
    ・地域におけるゴミの分別方法
    ・夜中に大声で騒いだり騒音を出したりするなど、近隣住民の迷惑になる行為は控えること
    ・空き地や畑に無断で入ることは避けること
    ・喫煙には一定の制限があること(喫煙、禁煙場所等)
  • 日本では違法となる行為の例
    ・原則として、銃砲刀剣類の所持が禁止されていること
    ・大麻、覚醒剤等違法薬物の所持等は犯罪であること
    ・ 在留カードの不携帯は犯罪であること
    ・ 在留カード、健康保険証等を貸し借りすることは禁止されていること
    ・ 自己名義の銀行口座・預貯金通帳・キャッシュカード・携帯電話を他人に譲渡することは犯罪であること
    ・ ATMで他人名義の口座から無断で現金を引き出すことは犯罪であること
    ・ 他人になりすまして配達伝票に署名したり、他人の宅配便を受領することは犯罪であること
    ・ 放置されている他人の自転車等を使用することは犯罪であること
  • 行政機関への届出
    ・所属機関等に関する届出、住居地に関する届出
  •  受入企業の相談・苦情対応者の連絡先
    ・ 支援担当者の氏名、電話番号、メールアドレス等
  • 相談・苦情を受け付けている国・地方公共団体の連絡先
    ・ 地方出入国在留管理局
    ・ 労働基準監督署、ハローワーク
    ・ 法務局、地方法務局
    ・ 警察署
    ・ 弁護士会、日本司法支援センター
    ・ 大使館・領事館(パスポートの棄損・紛失等)
    ・ トラブル対応や身を守るための方策(地震・津波・台風等の自然災害、事件・事故等への備え、火災の予防(たばこの不始末、コンロ・ストーブの取扱い、消火器の使い方))
    ・ 緊急時の連絡先・場所、警察・消防・海上保安庁への通報・連絡の方法
  • 各種法令など
    ・ 入管法令(在留手続、みなし再入国制度、在留資格の取消し及び在留カードに関する手続等)
    ・労働関係法令(労働契約、労働保険制度、休業補償制度、労働安全衛生、未払賃金に関する立替払制度)に関する知識
    ・ 賃金不払いなど法令違反がある場合、その相談先(労働基準監督署・地方出入国在留管理局)
    ・ 人権侵害があった場合、その相談先(法務局・地方法務局・地方出入国在留管理局)

このように、事細かく定められた内容についてガイダンスしなければならないとされています。

随時に必要な「支援」

日本語学習の機会の提供

雇用した特定技能人材から要望があれば、日本語学習の機会を提供するために、以下の3つのうちのどれか1つ以上を行う必要があります。

  •  地域の日本語教室などの情報を提供し、必要に応じて手続の補助を行う
  •  自主学習のための学習教材などに関する情報を提供し、必要に応じて補助を行う
  •  特定技能人材との合意の下、受入企業が日本語教師と契約する

相談・苦情への対応

仕事や日常生活などに関する相談や苦情を受けたときは適切に対応するとともに、必要に応じて相談・苦情の内容に対応する機関(入国管理局・労働基準監督署など)を案内することが求められています。また、特定技能人材が入国管理局などへ行く際には、同行して必要な手続の補助を行わなければなりません。

相談・苦情への対応は、原則として特定技能外国人の母語で行う必要があります。

日本人との交流促進に係る支援

自治体やボランティア団体などによる地域行事などへの参加の手続の補助を行うほか、必要に応じて行事に同行して、注意事項や実施方法の説明などを行わなければなりません。
実施時期は「必要に応じて」とされていますが、誰にとっての「必要に応じて」なのかは明確にされていません。
地域行事の存在を把握した段階で特定技能人材へ声を掛けてあげ、本人の希望に沿ってサポートする程度で問題ないでしょう。

転職支援

人員整理や倒産など受入側の都合で特定技能人材を解雇する場合には、以下のいずれかの方法で転職先を探す支援を行わなければなりません。

  • 業界団体や関連企業などを通じて、次の受入先に関する情報を入手し提供する
  •  ハローワークや職業紹介事業者などを案内し、同行などして次の受入先を探す補助を行う
  • 円滑に就職活動が行えるよう推薦状を作成する
  •  受入企業が職業紹介事業を行うことができる場合は、就職先の斡旋を行う

なお、解雇に際しては、求職活動のための有給休暇の付与や、離職時に必要な行政手続(国民健康保険や国民年金に関する手続等)の情報提供も行うことが求められています。

定期的に必要な「支援」と「届出」

特定技能人材との面談

特定技能人材の労働状況や生活状況を確認するため、本人とその監督者(直接の上司や社長など)のそれぞれと、3か月に1回以上の頻度で面談を実施する必要があります。面談をテレビ電話などで行うことは、認められていません。使用する言語については、原則として外国人本人の母語とされています。
また、面談した際に残業代不払いなどの法令違反が発覚した場合は、入国管理局や労働基準監督署などの行政機関へ通報することも義務付けられています。
なお、面談実施後は「定期面談報告書」を作成するおく必要があります。

入国管理局への報告書届出

特定技能人材を雇用した後は、四半期に1回、次の3種類の報告書を提出することが定められています。

  • 受入れ状況に係る届出書
  • 支援実施状況に係る届出書
  • 活動状況に係る届出書

提出期限は各四半期満了から14日以内です。例えば第2四半期の届出書は、6月30日の14日後にあたる7月14日までに入国管理局へ提出(郵送も可)しなければなりません。
届出内容によっては「生活オリエンテーション確認書」や「定期面談報告書」を添付する必要がありますので、慌てることがないよう、それぞれの支援実施後に書類は作成しておくことを推奨します。

まとめ

特定技能人材を雇用したあとは、以上のような支援・届出が必要になります。これらの時間的コストと登録支援機関へ委託した際のコストを比較衡量し、自社に合った特定技能人材の支援方法を検討してください。

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竹村 友希

過去3000名以上の外国人を指導してきた日本人理解授業を担当する講師。前職の介護職での経験を生かし、日本人の人口の大半を占める高齢者層と、どのようにコミュニケーションをとるべきか、どのような理解が必要かなどをメソッド化し教えている。