外国人の日本語教育方法|現状・問題点・日本語レベル・他社事例
執筆者:坂下(特定技能外国人支援担当)
日本語が母国語である日本人からすると、日本語が話せることは当たり前であるため、改めて日本語の勉強方法について答えるのは難しいですよね。そのため、外国人労働者に向けた日本語教育を課題に感じている企業様が多くいらっしゃいます。
そこで今回は、100名以上の働く外国人に日本語教育を行う私独自の視点も交えながら、外国人労働者を雇用している企業様あるいは雇用を検討している企業様に向けて、外国人労働者の日本語教育の現状や方法についてお伝えいたします。
1. 外国人労働者の日本語教育の現状
近年日本の労働人口は減少傾向にあり、人手不足の対策として外国人労働者の雇用がさらに進んでいくといわれています。令和3年10月末時点の外国人労働者数は 1,727,221 人で、前年と比べて 2,893 人増加し、過去最高を更新しました。
しかしながら、文化庁がまとめた「令和3年度国内の日本語教育の概要」によると、全国1896市区町村のうち46%は、外国人労働者が通える日本語教室のない「空白地域」とされています。日本語教師は東京などの大都市に集中し、地方では日本語学習の場が整っていないというのが現状です。
また、外国人労働者が増加する一方で、国内に39,241人いる日本語教師の約5割はほぼ無償のボランティアで担われています。令和元年に日本語を学ぶ機会を最大限確保するため、日本語教育の推進に関する法律が施行されてから3年経ちますが未だ日本語学習の環境整備は進んでおりません。
外国人労働者にとって、日本語でのコミュニケーション能力は、日本で仕事をし、生活するために必要不可欠な要素です。そのため、外国人労働者を受け入れる企業側が、日本語教育の環境を整えることが求められています。
1-1. 企業が抱える外国人労働者の日本語教育の課題
外国人を採用した際に社内で日本語教育の体制が整っておらず、外国人の日本語スキルが向上しないため、業務に支障が出てしまうということが課題として挙げられます。
2018年に日本商工会議所が行った「人手不足等への対応に関する調査」によると、外国人を雇用している企業のうち51.5%が「言語等コミュニケーションがとりにくい」と回答しています。また、今後外国人の雇用を検討している企業のうち59.2%が「言語等コミュニケーションに不安を覚える」と回答しています。
外国人労働者を受け入れる上で最優先事項とされる日本語教育ですが、実際に日本語能力を上げるための最善策はまだ確立されておりません。
企業側は、採用してから慌てることのないように、入社後の日本語教育について事前に想定し、用意しておく必要があります。日本語でのコミュニケーションを積極的にとるなど、自然に日本語を使う機会が増えるような環境づくりも重要です。できるだけ早く会社の戦力となっていただくためにも、少なからず、企業側の努力が必要となっています。
1-2. 外国人労働者の日本語教育の問題点
外国人労働者にとっても、日本語学習の環境が整っていないというのが大きな問題となっています。「令和2年度 在留外国人に対する基礎調査報告書」の中でも、日本語学習の困りごととして、日本語教室・語学学校等の利用・受講料金が高いが23.3%、都合のよい時間帯に利用できる日本語教室・語学学校等がないが15.6%、日本語を学べる場所・サービスに関する情報が少ないが15.0%、近くに日本語教室・語学学校等がないが11.3%という結果になっています。
日本語学校に通う費用が賄えなかったり、働きながら学ぶには就業時間とのバランスが取れなかったりといった理由から日本語学習を断念せざるを得ない外国人労働者も多くいます。このような多様な背景に合わせて、日本語学習の場を広げ、入口のハードルを下げることが求められています。
参照:出入国在留管理庁:令和2年度 在留外国人に対する基礎調査報告書
2. 外国人の一般的な日本語レベル
さて、今現在日本国内に在留している外国人はどのくらいの日本語力を持っているのでしょうか?
100名以上の働く外国人に日本語教育を行ってきた私の見解では、挨拶や簡単なコミュニケーションがとれる程度の日本語力の方がほとんどです。これは、日本語能力試験(JLPT)でいうところのN4にあたります。最近街中でよく外国人の方が居酒屋やレストランのキッチンで働いているのを見かけますが、彼らの日本語力は大体N4と考えてください。
さらに日本語が話せるようになると、注文をとったり、お客様とかかわったり、コミュニケーションが必要なホールで働くことができます。業務が多岐にわたるコンビニエンスストアの外国人店員は、実は日本語のエリートで、N2以上の日本語力を持っています。日本語能力試験の各レベルについて詳しくは次に説明いたします。
2-1 日本語能力試験(JLPT)とは
外国人の日本語能力を測定する方法としてよく使用されるのが、日本語能力試験(JLPT)です。在留資格や業種によって求められる日本語能力は様々ですが、日本で働く外国人の多くは日本語能力試験(JLPT)N4以上の日本語能力を習得しています。日本語能力試験はN1~N5まで5段階のレベルに分かれており、各レベルの認定の目安は以下の通りです。
N1 | 幅広い場面で使われる日本語を理解することができる |
N2 | 日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる |
N3 | 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる |
N4 | 基本的な日本語を理解することができる |
N5 | 基本的な日本語をある程度理解することができる |
外国人の受け入れを検討する際に、企業は外国人の日本語レベルが重要なポイントになるかと思います。しかしながら、JLPTでは、話す力、書く力は測定されないため、いざ外国人を採用してみると、想像よりも日本語でのコミュニケーションが困難な場合があることも、少なくはないです。あらかじめ、業務においてどの程度の日本語レベルが必要なのか基準を定めておくことが大切です。
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3. 外国人労働者に日本語教育をするメリット・重要性
ここからは、100名以上の働く外国人に日本語教育を担当する私が考える、外国人労働者に日本語教育をするメリット・重要性について解説します。
私が考える日本語教育のメリット・重要性はズバリ、雇用する外国人労働者の定着率アップにつながるということです!
そもそもなぜ外国人労働者の定着率が上がらないのかというと、大きく2つ理由が挙げられます。
3-1. 理由① 日本人労働者とのコミュニケーションがうまくとれない
日本語が話せないため、自分の意見や考えを伝えられないことが、外国人労働者にとってストレスの原因となります。特に、在留資格「特定技能」で求められる最低限のレベルはN4(ややゆっくり話される会話なら理解できる)であるため、社内で交わされる日常スピードでの日本語についていけない方も多くいます。日本人労働者の輪に入れず、職場に馴染めないことが離職の原因となっています。
3-2. 理由② 思うようにキャリアアップができず、給与が上がらない
日本人よりも外国人の方がキャリアアップ志向が高い傾向にありますが、日本語能力の低さから、仕事を任せてもらえず、なかなか昇進できないことが不満となります。もちろん、ゆっくり話せば理解できますし、片言の日本語でも十分に働くことはできるのですが、一つの業務を教育するのに時間がかかってしまうため、結局決まった業務だけを任せる状況になります。自分のスキルが発揮できず、正当に評価されていないことを実感するとこれもまた離職に繋がります。
上記2つの問題を解決し、外国人労働者の定着率を上げるためには、日本語教育が欠かせません。弊社で支援をしている、介護業で働く特定技能外国人の中には、元々漢字が読めない・書けないレベルから日本語授業に参加することで、介護記録を自分でつけられるようになり、夜勤も難なくこなす企業の大きな戦力にまで成長した方もいらっしゃいます。
外国人にとって日本語教育は、コミュニケーションを円滑にするだけではなく、業務の幅を広げ、キャリアアップするために役立ちますし、企業にとっても、教育に力を注いだ分だけスキルの高い人材に長く働いてもらえる可能性が高まります。
4. 小学校や日本語学校での外国人への教育方法
小学校や日本語学校ではどのような日本語教育がなされているのでしょうか?
貴社の外国人労働者の日本語教育のヒントにもなるかと思いますので、参考にしてみてください。
また、日本で働く外国人の中には、「家族滞在」ビザで日本へ家族を呼び寄せたり、日本で結婚したりする方々もいらっしゃいます。そのため、日本に呼び寄せられた家族や生まれてくる子どもたちが日本で生活するための日本語教育というのも今、必要とされています。
4-1. 外国籍児童の日本語教育の現状
文部科学省では、2年に1度「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」を行っています。調査内の「日本語指導が必要な児童生徒」とは、日本語で日常会話が十分にできない児童や、日常会話ができても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている児童を指します。令和3年の調査では、日本語指導が必要な児童生徒は日本国籍1万688人・外国籍4万7,619人の計5万8,307人おり、年々増加を続けています。
しかしながら、外国人児童への日本語教育や支援に関しては、国ではなく地方自治体にゆだねられているため、日本語教育が行き届いていないというのが実態としてあります。文科省でも、外国人児童に向けた「JSLカリキュラム」の開発や、日本語教育人材の養成、日本語指導を必要とする児童に対応した教員数の配置などの対策を講じていますが、なかなか追いついておりません。今後ますます増加するであろう外国人児童への日本語教育については対策が急務とされています。
4-2. 小学校や日本語学校での日本語教育について
日本語教材は種類も多く、何をどのように選べば良いか悩んでしまう方もいらっしゃるかと思います。
そんな方の日本語教材選びの参考になるよう、小学校や日本語学校でよく使用されている日本語学習教材をご紹介します。
◆初級日本語 げんき
『げんき』シリーズは「話す・読む・聞く・書く」の4つのスキルをバランスよく伸ばし、日本語の基礎力をつけることができる教材です。日本語能力試験N5に対応しているほか、日常生活でよく使われる表現や語彙が多く収録されているため、日本語の勉強を始めたばかりの人におすすめです。
◆みんなの日本語初級
『みんなの日本語初級』シリーズも、「話す・読む・聞く・書く」の4つのスキルを身につけるために作られた日本語初級用の教科書です。やさしい文型から難しい文型へ徐々にステップアップしていき、文型が実際にどのような場面で使われるのか考えながら学習することができます。
『いろどり』は、国際協力基金が作成しているオンラインの無料テキストです。だれでも無料でダウンロードして使うことができます。生活に根ざした会話中心の内容のため、日本で生活や仕事をする際に必要な基礎的な日本語のコミュニケーションを身につけることができます。無料で音声もついている他、ベトナム語、ミャンマー語、ネパール語を含む15言語に対応しています。
『みなと』も、国際協力基金が提供している日本語のオンライン勉強サイトです。無料の「自習コース」と有料の「教師サポート付きコース」の2種類があり、自分にあった学習スタイルに合わせて選択することができます。他にも、受講者同士が交流できるコミュニティがあり、日本という共通の話題をもった仲間を探すことができます。忙しくて学校に通う余裕がない方や、お試しで日本語学習を始めたい方におすすめです。
『やさしい日本語』はNHK WORLD- JAPANが運営している無料で「やさしい日本語」が学べるウェブサイトです。レッスンは48回あり、ビデオを見ながら日常的によく使われる会話を楽しく勉強できます。ビデオにはすべて字幕やふりがながついているので初心者の方でも安心して学べます。
教材にも一長一短あり、この教材だけを勉強していれば大丈夫!とは言い難いです。
レベルや目的など一人一人のニーズに合わせた教材選びに活用してください。
5. 外国人労働者におすすめの日本語教育方法
外国人労働者への日本語教育方法としては、オンラインでの日本語授業がおすすめです!弊社でも、人材をご紹介させていただいた企業様で働く外国人労働者に対しては、無償でオンライン日本語レッスンの提供をさせていただいています。
私が考えるオンライン授業の一番のメリットは、ネット環境さえあれば場所を選ばないため、仕事をしながらでも受講しやすいという点にあります。特に、弊社はリアルタイムで授業を受講するスタイルをとっているので、わからないことがその場ですぐに質問できる双方向のコミュニケーションを可能にしていたり、参加している他の外国人と切磋琢磨できるといった強みもあります。
実際に弊社のオンライン日本語レッスンにコツコツと参加し、JLPT のレベルをN4からN3に上げた方がいます。他にも、日本語授業を受講したことで、ゆくゆくは介護福祉士の資格をとり、日本で長く働くという大きな目標を見つけられた方もいます。
このように日本語授業で結果をだすためには、受け入れ企業様の後押しがカギとなります。日本語授業に参加させるためにシフトの調整をしたり、JLPT取得による給与アップをしたり、モチベーションを維持するための取り組みがあるとよりよいでしょう。
外国人労働者の日本語能力向上には、企業様のサポートが必要不可欠であることを日々実感しています。
上記サービス以外にも、弊社で人材をご紹介していない企業様には、「JJSにほんご」というオンライン日本語レッスンサービスを提供しているので、興味があればぜひ見てみてください!
6. 活用したい!外国人労働者の日本語教育の補助金
雇用する外国人労働者へ日本語教育をしてみようと思われた方は、一度補助金を利用できないかを検討することをおすすめします。
ここでは、地方自治体による、外国人労働者への日本語教育に関する助成金・補助金制度についてご紹介いたします。今外国人を雇用している方、雇用を検討されている方、まずは地元に助成金制度がないか調べることをおすすめします。
◆東京都
支援対象事業内容:日本語能力試験(N2レベル以下)の外国人従業者を対象としたビジネスに必要な以下の日本語教育
- 日本語教員による日本語教育
- 日本語教材の作成(日本語教員が作成したものに限る)
- ビジネスマナー講座
- 異文化理解に係る講座
※➌及び➍の単体実施は不可。
※➊の総受講時間数は50時間以上であること。
※❷の想定学習時間数は50時間以上であること。
助成率:1/2
助成上限:最大25万円
◆埼玉県
制度名:外国人のための環境整備事業補助金
支援対象事業内容: 介護福祉士を目指す留学生(日本語学校在籍者) | 補助率 | 基準額 |
日本語学校学費 | 1/3 | 年額1人あたり60万 |
居住費 | 1/3 | 月額1人あたり3万 |
支援対象事業内容: 技能実習生(介護) | 補助率 | 基準額 |
日本語学習費 | 2/3 | 年額1介護事業30万円(1受入事業所あたり60万円が上限) |
居住費 | 1/3 | 月額1人あたり3万 |
支援対象事業内容: 特定技能1号 | 補助率 | 基準額 |
日本語学習費 | 2/3 | 年額1介護事業所あたり30万円(1受入事業所あたり60万円が上限) |
◆山梨県
支援対象事業内容 | 補助率 | 補助上限額 |
①日本語教室への参加、オンラインレッスンの受講などの生活に関する日本語学習に関するもの | 1/2 | 100万円(③を行う場合は150万円) |
②地域行事への参加や地域住民との交流会への参加に関するもの | 1/2 | 10万円 |
③専門用語語彙リストを整備して行う仕事の場で使う日本語学習に関するもの | 10/10 |
◆富山県
◆秋田県
制度名:外国人介護人材受け入れ施設等環境整備事業補助金
支援対象事業内容:外国人介護人材とのコミュニケーション支援
補助率:2/3
補助上限額:1事業所あたり20万円
◆福島県
支援対象事業内容:
- 外国人介護職員とのコミュニケーションを促進する取組
- 外国人介護職員の介護福祉士の資格取得に必要な取組
- 外国人介護職員の生活支援に必要な取組
補助率:3分の2
補助上限額:20万円
◆鳥取県
支援対象事業内容 | 補助率 | 補助上限額 |
社内多言語化のための翻訳経費 | 1/2 | 1事業者あたり2万5千円 |
日本語学習教材の普及補助 | 1/2 | 1事業者あたり1万円 |
日本語学習支援補助 | 1/2 | 1事業者あたり20万円(複数の事業所の外国人就労者を対象に開催する場合1事業者あたり40万円) |
技能実習指導員、生活指導員講習の受講補助 | 1/2 | 1人あたり5千円(1事業者各講習それぞれ1人まで) |
7. まとめ
外国人労働者の日本語教育についてお伝えさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
今後ますます外国人労働者が増えていく中で、企業様による日本語教育のサポートが非常に重要とされています。この記事で、日本語教育の重要性を改めてご認識いただき、少しでも日本語教育を行う際の手がかりにしていただければ幸いです。
弊社の支援に興味がある方は、まずは無料相談を受けてみてください。